夫の姓か自分の姓か、選べる自由
先の衆議院選挙では、選択的夫婦別姓が争点のひとつだった。選挙の開票速報を見ながら夫にそのことを伝えると、意外そうな、そしてちょっと馬鹿にしたような顔をされた。
そりゃそうだ。先進国の中で夫婦別姓が認められていないのは日本ぐらいなのだから。認められていない、というより、苗字を変えないのが当たり前という国も多い。
日本人が国際結婚をする場合は、基本的に夫婦別姓になる。これは国際結婚をしてよかったと思うことのひとつだ。アイルランド人の夫の姓に変えたかったり、お互いの姓を合わせた「複合姓」を名乗りたい場合には、婚姻から 6カ月以内に「氏の変更の届出」をしなければならない。それ以降になるともっとややこしくなる。
アイルランドで結婚をし、ダブリンの日本大使館に婚姻証書の謄本を提出しに行ったとき、ちょうどよいタイミングだったのでパスポートも更新することにした。すると、パスポートの旅券面の名前のところに夫の苗字を括弧で入れることができるがどうするか、と聞かれた。
ほう、そんなことができるのか。
ではやってもらおうかということで、以来、私のパスポートには夫の苗字もカッコの中に記載されることになった。これはこれで、役に立つこともあるのではないかと思っている。
アイルランドの法律では、名前を変える方法についての記載はないそうだ。結婚によって夫婦で姓をそろえる必要はない。結婚時に姓を変更したいときは、 婚姻証明書 Marriage certificate に新しい姓を記載すればよい。どちらの姓を選んでもよいし、ハイフンでつないで(つながなくてもよい)両方の姓を名乗ることもできる。かなり自由だ。
とはいえアイルランドでも、女性は結婚すると男性(夫)の姓に変更するのが一般的だ。ただ、自分の姓を変える、変えないという選択肢があり、変えようと思ったら結婚後でもいつでもできる、というのはいい。また、ほとんどの女性が仕事上では旧姓を使い続けているように思う。
この夏結婚した同僚には、1歳になる子どもがいる。彼女は結婚しても姓は変えておらず、子どもの姓は彼女の夫の姓だ。
「親子、夫婦で苗字が違うと、家族っていう意識が薄れると感じる?」と試しに聞いてみると、そんなこと関係ない、と笑われた。
日本では、江戸時代には多くの人々が公式の姓を持っておらず、夫婦同姓の起点になったのは1898年の明治民法だという。戸籍だってその歴史は決して長くはない。最初の戸籍法が施行されたのは長州藩の1825年で、全国的に統一されたのは 1871年(明治4年)の戸籍法だ。何百年も連綿と続く歴史があるわけではないものにとらわれ、夫婦別姓になると「伝統的家族観」が損なわれる、などと言っているのはおかしい。選択の自由があってしかるべきだ、と遠くアイルランドから思っている。