自虐キャラのアイルランド人、パリ五輪で変わった?
日本ではあまり報道されていないかもしれないが、今回のパリ五輪、アイルランドチームはこれまでにない活躍ぶりだった。
オリンピック好きの日本から来た身としては、この20年余、アイルランドでのオリンピックへの関心の低さに驚いていたものだった。おそらくアイルランドから参加する選手が少なかったからだろう。したがってメディア報道も乏しく、「あれ、オリンピックって今年だったっけ?」と真顔で言う人がむしろ普通だった。
でも、女子ボクシングが正式種目になった2012年のロンドン五輪で、期待のボクサー、ケイティ・テイラー Katie Taylor がアイルランドに16年ぶりの金メダルをもたらし、国中が熱狂。次のリオ五輪ではボート競技でケリー出身のオドノヴァン兄弟が活躍し、その茶目っ気たっぷりのインタビューが話題になったあたりから、「アイルランドもなかなかやるじゃないか」と少しずつ人々がオリンピックに目を向けるようになった。
パリ五輪最後の週末、気温は24度、快晴のダブリン。トリニティ大学側からグラフトン通りを見る。歩行者天国だが朝なので人は少なく、まるで戦車のような土木工事の車があった。
通りの入口にあるスターバックスで売られているダブリンとアイルランドのマグカップ。大きな頭と赤いくちばしがかわいい鳥は、ケリーのスケリッグ・マイケル諸島などで見られるツノメドリ puffin。
今回のパリ五輪は、1924年のパリ五輪から100周年にあたる。じつはその100年前のパリで、1921年に英国から独立したばかりのアイルランドは初めて自国の旗を掲げて参加することができた。
アイルランドは今年、これまでで最多の133人の選手を送りこんだ。国の公共放送 RTÉは、テレビ、ラジオともオリンピックの報道に力を入れることをうたった。ふたを開けてみると、ほとんどの人はイギリスの BBC 放送やスポーツチャンネルでもオリンピック放送が見られるので、局ごとの解説をついつい比較することになった。
「アイルランドの解説者って、どれだけそのスポーツについて知ってるの?って疑問に思うことがあるよね。」
「でもさ、これだけ多種目のスポーツについて話せる人アイルランドで見つけるのは難しいよ。」
「いやだけど、何かよく知らないことを適当にしゃべってるって感じだよ。」
本当だよね、ははは、と私の知り合いはみな言いたいことを言っている。アイルランド人は自分や自分の国をこき下ろすことが大好きで、解説者まで酷評して楽しむのだ。
オリンピックも後半戦に入って気がついてみると、金メダル4つ、銅メダル3つ、とこれまで最多のメダルを獲得していた。陸上女子も健闘。私の周囲のアイルランド人の口からも「こんなに小さい国からこんなにいい選手が出て、すごい」というほめ言葉が出てきた。
私が前回の東京五輪で注目したアイルランド選手、バドミントンのナット・ヌーエン Nhat Nguyen は今回のパリ五輪も参加した。3回戦でこれまで2回対戦して敗れたデンマーク人の選手とあたり、残念ながら敗退した。そのデンマーク人は東京五輪の覇者で、そして今回も優勝した。
男子体操の期待は個人種目の「あん馬 Pommel horse」のリース・マクレナハン Rhys McClenaghan 選手。東京五輪では7位に終わったが、2022年、2023年の世界選手権で優勝して実力を見せつけ、晴れてこのパリ五輪で金メダルを取り、泣いた。
そのマクレナハン選手はインタビューで今のアイルランドのスポーツ界について聞かれ、こんなふうに応えた。
There is no more this false modesty. We are aiming for the top spot, we are aiming for gold medals now. And we are not scared to say anymore.ごまかしの謙虚さはもうない。私たちは頂点を目指しているし、オリンピックで金メダルを目指している。こうやってはっきり言うことももう怖くはない。
話題の多かったパリ五輪がもうすぐ終わる。