毎年8月下旬は National Heritage Week という週間で、イベントが目白押しだ。中でも興味をひかれたのが、ダブリンの街中や海岸で化石を探そうというツアーだ。

Heritage とは「遺産」という意味だ。National Heritage Week の期間、人間が作り上げた「文化遺産」、そして地球の歴史や動植物の進化を伝える「自然遺産」について知り、その保存を支援するという取り組みがこの20年近く毎年行われている。

ダブリンの街中を歩いて化石 fossil を探す、という無料のツアーに申し込んでみた。集合場所は クライストチャーチ Christchurch。当日は天気はまずまずで、家族連れの参加者も多い。ダブリンの大学で研究をしている案内役の女性が、「私は paleontologist です」と自己紹介した。どこかで聞いたことがあるような、と思ったら、アメリカの人気ドラマ『フレンズ』の主役の一人、ロス Ross の職業、古代生物学者のことでした。

Heritage Week の旗をもって先導する古代生物学者のガイドについてトリニティ大学へ。

トリニティ大学の Museum Building と呼ばれる建物に特別に入館。約 1万1千年前に絶滅した Great Giant Deer、アイルランドのヘラジカ elk の雄と雌の骨格標本が迎えてくれる。ここは地質学 Geology、地理学 Geography 及び Civil Engineering 土木工学の授業や研究で使われる建物だ。

コネマラ大理石の柱が立ち並び、天井のドームはムーア建築(スペインの建築様式で、残留イスラム教徒とキリスト教徒の建築様式が融合したスタイル)を模したもの。セラミックタイルに見えるが、実はレンガの片面にセラミックの着色が施されている。

注目したのは何本もある石灰石の柱。石炭紀(Carboniferous period、3億5920万年前から2億9900万年前までの時期)のアイルランドは浅い海に覆われており、その時代の石灰岩からはサンゴ、腕足類、ウミユリ、頭足類、コケムシなどの多様な化石が産出されている。

石灰岩の柱が赤っぽいのは鉄分を含んでいるから。よく見ると小さいアンモナイトなどの化石が。

もっと大きなアンモナイトの化石がヘラジカの近くに置かれていた。アンモナイトはイカやタコなどの頭足類の仲間で、1メートルを超える大きさになることもあり、向かうところ敵なしの存在だったそうだ。「人間だって食べられたかも」とガイドに言われてちょっとたじたじ。

トリニティ大学を後にして向かったのは、Nassau Street を Kildare Street の方に曲がったアリアンス・フランセーゼ Alliance Française Dublin の建物。

Crinoids ウミユリや brachiopods 腕足類などの化石がこれでもか、というくらいたくさん見える。ウミユリはウニやヒトデと同じ棘皮(きょくひ)動物のひとつで、現在でも深海域に生息している。

ツアーの締めくくりは、セント・スティーブンス・グリーン St Stephen’s Green 公園を越えた角にある Aercap House という建物だ。この通りをさらに南下すると National Concert Hall があり、ほんの数週間前にコンサート会場に向かう途中にこの建物に注目したばかりだった。やはり化石だったのか!

写真奥の緑の茂っている界隈がスティーブンス・グリーン公園。

アイスクリームのコーンのような形状の腹足類 gastropods。

2枚の殻をもつ brachiopods 腕足類や大きなサンゴの化石も。

よく通るようなところばかりだったのに、こんなに豊富に化石があったとは知らなかった、と参加者はみなため息をついていた。一度知ると、ダブリンの街歩きがもっと楽しくなりそう。

この日のお昼は新しくできたタイ料理屋 achara へ。夜も訪れたい雰囲気のあるレストラン。オコンネル橋と Ha’penny Bridge のあいだ、リフィー川の南側にある。

15ユーロのランチメニューのうち、私の選んだチキンサラダはまあまあだったが、夫の食べた Khao Soi というココナッツカレーはまた食べたくなるおいしさ。

ご飯ではなくてヌードルなのでまるでラーメンみたい。

食器もかわいい…。