先週の日曜、行きつけの映画館で夫と韓国映画『Sleep スリープ』(2023)を見終わって外に出ると、珍しく青空が広がっていた。次の予定まで少し時間があったので、リフィー川に面したカフェ Panem で一息することにした。

この店、懐かしい。カフェレストラン、パネム Panem Café & Restaurant の創業は1996年。私がアイルランドに住み始めた2002年にはすでに人気の店だった。私はコーヒーのことは全くわからないが、シチリアから輸入した Torrisi というコーヒー豆で淹れるコーヒーは格別らしく、クロワッサンやフォカッチャもすべて手作りだ。

パネムはそのうち隣の店舗も手に入れて倍の大きさになり、観光客の多い立地を活かしてアイリッシュ・ブレックファーストなどの食事メニューも充実させた。数年前にはアルコールを扱うライセンスも取った。午後4時半か5時には閉店してしまうので、仕事帰りに軽食を取りながら一杯、と居酒屋代わりに使うことはできないが、いろいろな用途に使えて今でも重宝している。ただ最近はパン類を持ち帰りするだけのことが多かったので、座って食べるのは数年ぶり。

Temple Bar 界隈からリフィー川を北に渡った通りに Panem Café & Restaurant がある。ダブリンの老舗日本レストラン  Yamamori Sushi もこの並びだ。

フォカッチャは豚ひき肉とロースト野菜が柔らかいパン生地にぴったり。軽い食事には 2人で分けても十分な大きさだった。

値段を特に見ずに「本日のフォカッチャ」とワイン2杯を注文して支払いをすませ、店の外の川沿いの席に腰を下ろした。だが待てよ、とふと気がつく。26ユーロも払ったな。フォカッチャ2つ分請求されちゃったのかな、と確かめると、なんとハウスワインが一杯9ユーロもした。カジュアルなカフェでもこの値段。立地が立地なだけに、しかたがないのか。

先ほど観た映画の感想を語り合ったりしながら街ゆく人の流れを楽しんでいると、夫が、「パネムと言ったらチーズケーキだよね」と言い出した。

そうそう、昔、この店でベイクドチーズケーキを食べたら、濃厚なクリームチーズと酸味の効いたレモン味の虜になってしまった。

数日後にまたチーズケーキを求めて行くと見当たらない。売り切れちゃったのかな、と店の人に聞いてみると、「チーズケーキは金曜しか焼かないよ」と教えてくれたのはオーナーのイタリア人だった。パネムはこのシチリア出身の建築家である旦那さんとアイルランド人の奥さんが作り上げた店なのだ。その後またこの店のチーズケーキにありつくことができ、夫といっしょに堪能したのは数週間後の金曜日だった。

Panem 店内は観光客と地元の人と半々くらい。この赤いセーターの男性がオーナー。まだ現役で接客しているとは。

その翌年だったか、私は風邪で家でふせっていたことがある。そのとき夫は私に、病み上がりに何か食べたいものがあるかと聞いた。私はパネムのチーズケーキが食べたいと言ったので、その週の金曜に夫はそのためだけに街に出た。チーズケーキを3切れ買って2人で一切れずつ食べ、最後の一切れは私が食べたらしい。

この店のチーズケーキのことも、このときの夫の気遣いのことも忘れていた。

この日はやはりショーケースにチーズケーキはなかった。数日後にまたのぞいてみたが、ティラミスケーキが「本日のケーキ」としてあるだけだった。オーナーさんが見当たらなかったので別の店員に聞くと、「チーズケーキ、あるときはあるけど今日はない」と頼りない返事。余計にまた食べたくなった。

今年の丑の日は7月25日と8月5日。そして丑の日といえばウナギ!居心地のいいのでときどき行く日本料理屋 Aoki Sushi Noodle Bar に鰻弁当があったので試してみた(21ユーロ、約3500円)。北アイルランドでもウナギは獲れるはずだけれど、恐らくここでは冷凍を使っているのだろうな。でもダブリンでタイミングよくウナギが食べられてよかった。