英語で応急手当 First Aid 講習を受ける
職場で応急手当講習を受けた。3日間、9時半から4時近くまでみっちりと First aid のいろは、いやABCを学んだ。
講師には恵まれたといっていいだろう。救急救命士の資格をもった消防士など3人が入れ替わりで担当し、自身の体験を生々しく、ときにはユーモアたっぷりに語ってくれた。面白いのだが、なにせ全員ダブリンなまりがキツく、しかも早口なので、私はとにかく耳を集中させなければならず、ときには話についていくのがやっとだった。
参加者は私を入れて8名で、所属している部署もさまざま。接客の多い仕事をする人もいれば、完全にオフィスワークの人もいる。
使ったテキストブック。参加者一人ひとりに人工呼吸用のマスクも渡された。
講習で一番時間を費やしたのは、心肺機能の蘇生法だった。英語では CPR。Cardiopulmonary resuscitation の略だ。Cardio は「心臓」、pulmonary は「肺の」、そしてresuscitation は「蘇生」。
心臓はカーディオじゃなくて heart、肺は lung と言ってくれた方がわかりやすいが、まあ CPR と覚えておけばよい。
では次はどういう状況でこの心肺機能蘇生を施すかということになる。
はい、誰かが倒れていました。素早く周囲の状況を確認し、自分自身が安全な状況であればその人に近づく。
「Hello! Can you hear me? もしもし、聞こえますか」と話しかけ、肩をたたいたり揺らしたりする。それでも応答がなければその人を仰向けに寝かせ、次の ABC を確認する。
- Airway(気道): 気道を確保するため、あごを少し上に持ち上げて喉元を広げる。
- Breathing(呼吸): 胸部が上下に動いているか、鼻や口から息をしているか見る。
- Circulation(心拍): 手首や喉元(頸動脈)に手をやって脈があるかどうか確認する。
この ABC 確認に要する時間は30秒から1分程度。もし外部出血 external haemorrhage があれば止血し、呼吸をしていなければ直ちに服の上からでも CPR を施す。
助けも呼ばなければならない。周囲に人がいれば、「Call 999!」と救急車を呼ぶように頼み、駅や施設の中であれば AED(自動体外式除細動器)を持って来てもらう。AED とは automated external defibrillator の略で、単に defibrillatior とも呼ばれる。心臓に電気ショックを与える機器だ。
Defibrillator ディフィブリレイタ―… これは覚えられない。隣に座っている参加者に「どう書くの」と綴りを聞いたが、はっきりとはわからないようだった。略して defib ディフィブ、もうこれだけ覚えればいい。Difib と AED という言葉を覚えたら、「Get me the AED(difib)!」と叫んで持って来てもらうことができる。
AED あるいは defib がない場合には CPR(心肺機能蘇生)を施すしかない。CPR とは胸骨を圧迫して心臓マッサージをしつつ人工呼吸を行うことだ。30回強く押し、それから2回人工呼吸をするのをくり返す。AED が用意されたら、CPR を続けながら AED の音声ガイドのとおりに電気ショックを与えて蘇生を試みるのだ。
このマッサージ、思った以上に力を使う。ビージーズの名曲、その名も Stayin' Alive のリズムでハッ、ハッ、ハッと30回思い切り胸骨部を押すのだが、5セット、2分もするとへとへとになる。
CPR 実践でお世話になったマネキン。私は30回ずつ数えるときには日本語で数えていた。こんな切羽詰まった状況でワン、ツー、スリーなんてとても出てこない。
講習中、コの字型のテーブルで私の対面に座っていたのは30代半ばのジェームズ。3日目の最終日には、彼の「どよん」とした表情から、かなり疲れがたまっているのがわかった。脳卒中 stroke の兆候、モノが喉に詰まった場合(気道閉鎖)choking の対処法、火傷 burns の応急手当など、どれも重要なこと、知っておけば自分にも身の回りの人にも役立つことだが、覚えることが多くて私も気が遠くなりそうだった。
英語が母語でないのは私だけだったが、言葉の問題以上につらかったのは内容だ。人の生死にかかわる話を延々としているわけで、参加者みんな、ともすれば気が滅入ってしまうのを何とかこらえていた。通勤途中、バスの中から道端で倒れているような人が見えたり、道端で横になっているホームレスの人がいて「息をしているかな」と気になったり。
講師たちが口をそろえて言っていたのは、「まず自分の安全が第一」だということだった。倒れている人がいても、周りが血の海だったり、危険物が落ちていたりしたら「近づくな」。そうでなくても CPR を施す自信がなかったら、「やらなくてもいい」。誰も責めない。
ただ、一度処置を始めたとしたら、救急車が到着して患者を受け渡すまではその場を離れないこと。そしてその後は「自分の心身の疲労とストレスをケアすることが大事」だということだ。
講習中の3日間、休憩室には参加者と講師のためにクッキーが用意されていた。自らも救急救命士の資格をもち、仕事の合い間に救急活動のボランティアをしているスタッフが買ってきてくれたのだ。ハードな講習だということを知ってのその心遣いがありがたかった。
最後には試験もあり、私もみなも無事に合格。晴れて PHECC(Pre-Hospital Emergency Care Council)の認める First Aid Responder となった。2年ごとにリフレッシュ講習もあるとのこと、次もがんばるぞ。