アイルランドにもピアノコンクールがある。その名も Dublin International Piano Competition(DIPC)、ダブリン国際ピアノコンクール。前回の2022年の大会では日本人が優勝と2位という素晴らしい結果を出した。

このコンクール、1988年から3年ごとに開催されている。アイルランドの景気がよくて大会にスポンサーがたくさんついていたころは、ナショナル・コンサートホールで行われる決勝の様子がテレビでも放映されたそうだ。

これまでの数回の大会は、私もよく予選や決勝を聴きに行った。決勝では出場者が RTÉ管弦楽団と共演するのだが、ある年にはプロコフィエフのピアノ協奏曲2番と3番を初めて生で聴き、しばらくプロコフィエフのとりこになったものだ。

なのに、新型コロナで大会が一年延期したせいか、2022年の大会はすっかり私の頭から抜け落ちていた。日本にいる友人が「日本人が優勝したよ!」と連絡をくれるまでまったく知らなかった。ああ残念。

優勝者は黒木雪音(ゆきね)さん、そして2位に古海行子(やすこ)さん。2人ともコンクール期間中はホストファミリーの家に滞在し、電車の車窓から見える海や山の景色に癒されながらコンクール会場まで通ったそうだ。

その黒木さんが2年ぶりに演奏会のためにダブリンに戻ってきた。これは絶対に見逃さないぞ、と早々とチケットを取り、昨夜コンサートに足を運んだ。

演奏会会場は RIAM(Royal Irish Academy of Music、ロイヤルアイリッシュ音楽院)、写真の右手前の茶色の建物だ。通りの奥には電車の Pearse DART Station ピアース駅がある。

音楽院の改築工事を経て去年新しくできたリサイタルホールは、クラシック音楽ファンの友人たちから音響 acoustic がいいと太鼓判を押されている。

前から2列目の中央の席から見えるステージ。ステージの高さや客席との距離がちょうどよくて、頭をのけぞらせることもなく快適だった。

プログラムはリストが大好きだという黒木さんならではで、レパートリーの広さがうかがえた。ダブリンでのコンクールのあとも数々の国際コンクールで活躍し、今はフリーランスで演奏活動をされているので、すでに貫禄の感じられる堂々とした弾きっぷり。曲が終わるごとに観客席からは割れんばかりの拍手がわき起こり、黒木さんがそれに応えて笑顔を見せてくれた。

演奏後、聴衆に囲まれる黒木さん(青いドレスが素敵)。隣りの青いスーツの男性はダブリン国際ピアノコンクールのアーティスティックディレクターを務めるピアニストの Finghin Collins さん。

長い歴史をもつこの音楽院では、子どもから大人までがピアノや管楽器、声楽などを学んでいる。リサイタルホールに向かう途中、教室の外でこれからレッスンを受けるのを待っている子どもたちを見かけた。がんばってね、と心の中でつぶやく。同じ建物の中でプロの音楽家が演奏会を開いているというのはいい刺激になるに違いない。

黒木さんは9月にまたアイルランドを訪れてくれる。アイルランド南西部にあるニューロスで毎年開かれるピアノフェスティバルに参加するためだ。来年5月には第13回目となるダブリン国際ピアノコンクールがあるが、そこで前回の優勝者としてのリサイタルも予定されているようだ。

今回ダブリンで新たなファンをたくさん作った黒木さん。これからもアイルランドで応援します。