嵐 storm の名前が意味するもの
今年の冬は嵐が多い。やっと Storm Isha が去ったと思ったら、今度は Storm Jocelyn が来た。
数日前にアイルランド北部と西部で、ストーム Isha(イーシャと発音する人もいればアイシャと言う人も)が電線の一部を破壊してしまった。そして昨日(23日)にはストーム Jocelyn ジョスリンがさらに激しい暴風雨をもたらして、今朝も約3万戸の住宅や企業が停電になっている。空港でも多くの飛行機がキャンセルや航路変更を余儀なくされて、人々が立ち往生しているそうだ。
ダブリン市内では、ときどき体が飛ばされそうになるくらいの強い風が吹いているくらいで、バスも電車も通常運航しているし、日常に変化はない。電気も水も普通に使えることに感謝だ。今日は少し太陽も出るようなので、おそるおそる洗濯物を外に干しているくらいだ。
こちらでは、中規模以上の嵐には人の名前がつく。名前はヨーロッパの多国間で共有されていて、アイルランドの場合は、気象庁 Met Éireann が英国とオランダの同様の団体といっしょに決めている。
日本では「台風〇〇号」と数字で表すのが一般的だが、人の名前がついていると覚えやすい。「数年前のストーム Desmond デズモンドはひどかったよね」と誰かが言ったりすると、知っているデスモンドさんの顔がつい思い浮かんでしまう。
Groups of countries, as defined by EUMETSAT, for storm survey and naming: ヨーロッパの嵐の名前は EUMETSTAT という気象サービスの枠組みに基づいて色分けされた国々が共同で命名している。
嵐の名前は9月から年度ごとに決まる。今年度は Agnes アグネスから始まり、Ciarán キーローンや Fergus ファーガスといったアイルランド独特の男性の名前もある。T の Tamiko が気になるが、これは日本の名前? 民子さん?
Storm Names 2023~2024年。アルファベット順 (Q、U、X、Y、Z を除く)に命名される。
今年度の命名では特にアイルランドの科学者にちなんだ名前がいくつか含まれている。A のアグネスはアイルランドの天文学者でサイエンスライターの Agnes Mary Clerke から取られている。K のキャスリーンは、コンピュータプログラミングの母の一人である Kathleen(通称 Kay) McNulty Mauchly Antonelli と、ベンゼンの結晶構造を実証したアイルランドの結晶学者 Kathleen Lonsdale にちなんでいるし、その次の L のリリアンは Lilian Bland(1878‐1971)から。この人はイギリス系アイルランド人のジャーナリストで、アイルランドで初めて航空機を製造し操縦した女性だそうだ。
今来ている嵐のジョスリン Jocelyn という名前は、1967年に天体のパルサー pulsar を発見したことで知られる北アイルランド出身の天体物理学者ジョスリン・ベル・バーネル Jocelyn Bell Burnell にちなんでいる。
現在80歳のバーネル教授は、科学を称えた名称リストに自分の名前が選ばれたことに喜び、こう言ったそうだ。
「…if a potential “Storm Jocelyn” happens, it may be a useful stirring-up rather than a destructive event!」
「ストームジョセリンが起きたら、それが大きな損害を生み出す出来事ではなく、世の中の役に立つ気持ちや行動を駆り立てるものになりますように」といったようなところか。私もそう願います。