バスに置き忘れた携帯電話、見つかった!
2023年の年の瀬も押し迫る12月29日の金曜日、家に帰ってものの3分とたたないうちに、携帯電話がないことに気がついた。
この日、仕事の後で夫と待ち合わせて映画『君たちはどう生きるのか』を観た。それから日本食レストランで軽く食事をし、バスで10時半ごろ帰宅。携帯電話のカバーにダブリンバスの年間パス券を入れているので、乗車時には電話を手に持っていたことは間違いない。帰宅までの小一時間のあいだ、どこでどうやって落としたのか。
マナーモードにしていたので、夫の携帯電話から電話をかけても発信音は聞こえない。
「家でケータイを取り出した記憶はないんだよなあ」と思いながらも、バッグやコート、普段家で電話を置く場所をくまなく探す。夫とバス停までのあいだを行ったり来たりしながら暗がりをのぞき込む。だが赤いカバーに入った携帯電話は見当たらない。
携帯カバーのポケットにはクレジットカードも入れていたので、カード会社に電話をした。
「不審な使用記録はありませんし、このカードはキャンセルしましたから、rest assured(安心してください)」と係の人が優しく言ってくれたので、とても気が楽になった。年末の夜遅く、焦って口が回らずしどろもどろの私にていねいに対応してくれ、頭が下がる思いだった。
バスの中で落としたに違いない。「Dublin Bus lost property」とググり、ダブリンバス会社の遺失物を取り扱う部門の連絡先を調べた。あいにく平日の5時までしか空いておらず、翌週の月曜は祝日(元旦)なので1月2日に問い合わせるしかない。専用のメールアドレスがあったので、そこにメールを送っておくことにした。
メールには、以下のことを明記しなければならない。
- 名前、連絡先番号、メールアドレス
- 紛失物の詳細な説明
- 紛失した日付
- 乗車していたバスの番号
- バスの進行方向(目的地)What direction you were travelling
- どのバス停に乗ったのか
- どのバス停で降りたか
- 何時にバスに乗り、何時に降りたか What time did you board and alight from the bus
メールを送付してからの数日は、大みそかと元旦以外は普通に仕事に行った。バスの中でいつも聴くポッドキャストにアクセスできなかったので何だか手持無沙汰だった。
そうだ、本を読めばいい。日本に帰国した際に買った篠田節子の文庫本『長女たち』をまだ読んでいなかったので、バスに持ち込んで読んだ。
通勤バスから見えるセント・パトリック大聖堂。夢中になって本のページをめくっていて、ふと顔を上げたときに大聖堂の荘厳な姿が現れたら、ぼちぼち降りる用意をしなければならない。
1月2日、職場でお昼休みに自分のメールをチェックすると、ダブリンバスから返信が届いていた。
「I am writing to you to confirm that your lost property has been found on one of our buses and is being held in the Dublin Bus Lost Property Office. お客様の紛失物が当社のバスの中で発見され、ダブリンバス遺失物オフィスで保管していますので、ここに連絡します」
やった! バスの運転手か、乗客の誰かが見つけてくれたんだ。
息せき切ってオフィスに電話して、携帯カバーにカード類が入っているかどうか聞くと、ちゃんとあるようだった。
同僚たちにことの顛末を話すと、「There are some nice people out there. 世の中には親切な人もいるもんだね」と口々に言って喜んでくれた。
翌日、受け取りのためダブリンバスのオフィスへ。オコンネル通りから一本入った、知らなければ通り過ぎてしまうような地味な小路にある。
入口右手が遺失物取り扱いのオフィス。ブザーを押すと係の人が窓口を開けて応対してくれる仕組みだ。正面のドアの向こうはダブリンバスの職員のための食堂になっていて、ひっきりなしに人の出入りがあった。
間違いなく自分の携帯電話を手に取った私は、気分よく「落とし物で一番多いのは何ですか」と聞いてみた。すると、「カバンの類かな。ハンドバックとか、買い物袋とか、バックパックとか」。
そういえば同僚の一人も、キッチングッズなどを入れた買い物袋をバスに忘れたことがあると言っていた。これもちゃんと届け出たら見つかったそうだ。ダブリンバス、なかなかやるではないか。
バスや電車での忘れ物関係のデータは見つからなかったが、タクシーのアプリ FreeNow が発表した2023年の忘れ物に関するデータでは、やはり一番多かった忘れ物は携帯電話。約2000台もタクシー車内に置き忘れられたのだという。続いて多かったのがカバン類で約1300個、鍵は455個、そしてヘッドフォンも360台。
週末に忘れ物をしたと問い合わせる人が多く、曜日別の報告率は、土曜日が24%、日曜日が18%だ。また、一番問い合わせが多かった月は12月だそうだ。クリスマスシーズンで出かける機会も多いし、浮かれ気分でいるからに違いない。年末の金曜の夜に落とし物をした私も、気が緩んでいたのだろう。
新年早々手元に帰ってきた携帯電話。まるでおみくじで「失せ物現る」を引いたようだ。