ダブリンの平均の家賃はここ10年で倍になった。一方、アイルランドの最低賃金は2011年からの10年で13パーセントしか上がっていない。一番損をしているのは誰か。

2011年、アイルランドの平均家賃は月に765ユーロだった。その前年にダブリンに家を購入した私たち夫婦は、それまでしばらくはワンベッドルームのアパートを月に850ユーロで借りていた。首都ダブリンの家賃の相場だったと思う。

それがいまや、ダブリンの平均家賃は 1800ユーロ(約28万円)。郊外ならまともな一軒家が借りられるが、ダブリン中心部や人気のある地域ならワンベッドルームの物件でもそれ以上するかもしれない。

かたや最低賃金(時給)minimum wage は 11ユーロ30セント、約1800円だ。東京の最低自給 1113円と比べると高いが、東京都の家賃相場は約 10万3000円らしいので、ダブリンはその 3倍近くもする。

ダブリンにはそもそも一人用のアパートが少ないので、何人もの人たちと家をシェアして家賃を分配するしかない。それでも一部屋あたりの家賃は平均 680ユーロ(約10万7000円)もする。私たちはこういうニュースを聞くにつけ、買えるときに家を買っておいてよかった、と胸をなでおろす。今の平均家賃なんてとても払えない。

いくつか「家売ります」の看板が出ている通り。アイルランドで 2023年1月までの 12カ月間に購入された住宅価格の中央値は 30万5000ユーロ(約4800万円)。都心に近くて緑豊かな住宅地にある家なんて軽くその倍はするかも。

こんな状況なので、最近アイルランドでは大学生や社会人になっても親といっしょに住む若者が増えた。家賃が高騰したため実家に戻る人も少なからずいる。

8月に発表された Eurostats の統計によると、アイルランドの 20代後半の若者 68%が親と同居をしていることがわかった。性別に見ると女性は5人に3人、男性にいたっては4人に3人になり、EU諸国の平均を大きく上回っている。

  • 25~29歳 女性:アイルランド61%、EU諸国平均48%
  • 25~29歳 男性:アイルランド74%、EU諸国平均36%

日本ではどうなのだろう。うまく比較できる資料は見つからなかったが、日本と違うと感じるのは、「30にもなるのに親と同居」という事実にアイルランドの多くの若者が忸怩(じくじ)たる思いでいるということだ。

アイルランドでは、早く自分の家を持って独立したいという意識が高い。これは、何百年ものあいだ英国に支配され、アイルランド人が自分で土地を持てなかったという歴史から来ているらしい。自分の土地、家を持ちたい、そうしてこそ一人前、という価値観が刷り込まれているのだ。

1980年から1997年ごろまでに生まれた人たち、いわゆるミレニアル世代 Millennials は現在20代後半から40代前半。リーマンショックで景気が一気に悪くなったときはまだ家を購入するには若すぎ、今では家が高すぎて買えなくなってしまった。この年代の私の知人や同僚たちの多くが、結婚式は挙げずにその分の貯金を家の購入に回したり、子どもができても狭いアパートでの賃貸暮らしを余儀なくされたりしている。親と同居して自分の independence が失われるくらいなら、海外に出てより質の高い生活がしたい、とアイルランドを離れる人だっている。

アイルランドと日本はワーキング・ホリデー協定を結んでいて、18歳から30歳までの日本人は最長1年アイルランドに住み、仕事をすることもできる。このビザで年間約 400人の日本人が英語力の向上、刺激のある生活を求めてアイルランドにやってくるのだが、彼らのほとんどがぶち当たるのが、家探しの壁。ダブリンで若い日本人を見かけると、家はどうしているかな、とつい気になってしまう。

ダブリンで人気ライブミュージック会場シュガークラブ The Sugar Club の前の看板に、今年 7月26日に 56歳で亡くなったシネード・オコナー Sinéad O’Connor の顔写真が出ていた。本当にきれいだったなあ。

右の ALDI スーパーの宣伝ポスターで緑色のジャージを着ているのは、元ラグビー選手で現在はコーチのポール・オコンネル Paul O’Connell。またラグビーワールドカップの時期がやってきましたね。