この夏、アイルランドの公共放送 RTÉ の大きな不祥事が発覚した。

そもそもこの放送局、日本の NHK のように受信料を毎年取る。衛星放送があるわけでもないのに受信料は現在170ユーロ(約2万7千円)と、NHK の地上波と BS 両方の受信料並み。私に解せないのは、RTÉ には民間放送局のようにテレビ CM が流れることだ。つまりスポンサーから広告料が入るのにもかかわらず、高価な受信料を視聴者からせしめているのである。ちょっと調子がよすぎるでしょう。

ダブリン南部に本社を置くアールティーイー RTÉ(Raidió Teilifís Éireann)とテレビ塔。

この RTÉ の過去数年を遡った経費報告書が今年6月に発表され、ニュースを席巻した。ただでさえ年収が軽く40万ユーロ(約6300万円)を超えるこの国でもっとも高給取りのプレゼンターの契約金を過少申告し、毎年何千ユーロも裏金 slush fund のように支払っていたことがわかったのだ。

それだけではない。広告クライアントの企業接待など、とんでもない支出は次のように目白押しだった。(円への換算は2023年8月現在のレート)

  • €26,000(約410万円)ブルース・スプリングスティーンとエド・シーランのコンサートチケット
  • €23,100(約360万円)2016年の UEFA チャンピオンズリーズの決勝戦のチケット
  • €21,000(約330万円)2016年のクライアントのためのサマー・パーティー
  • €33,400(約527万円)2016年と2018年、パワーズコートゴルフクラブでの 2回のゴルフ懇親会
  • €112,000(約1770万円)2019年の日本でのラグビー世界杯への航空券とホテル代
  • €4,957(約78万円)2016年のエージェントとクライアントのためのサマーパーティー用のビーチサンダル200足
  • €6,009(約95万円)ロンドンの高級会員制クラブ Soho House の 3年分の会費。€8,300(約130万円)という報道もあり。

サマーパーティーで配られたらしい Havaianas というブランドのビーサンについては、「1足25ユーロだよ!どこの会社がそんなものを200足も買って配るか」と私の職場では大いに盛り上がり、RTÉ を酷評した。

また、ラグビーワールドカップの取材のために日本に行くのはいいが、航空券やホテル宿泊代に約1770万円もかかっている。いったい何人で行ってどこに泊まったのか。

RTÉ が数年間会費を払っていたロンドンの高級会員制クラブは、ヘンリー王子とメーガン・マークルが初デートをしたところだ。クラブの規則で携帯電話やカメラなどで写真を撮ったり録画をしたりしてはいけない決まりがあるので、安心して会えたのだろう。まあそれはさておき。

RTÉ は数年前に経費削減のためにロンドン事務所を手放したのだが、そのため当時のロンドン特派員はカフェなどを漂流しながら仕事をすることを余儀なくされた。英国の EU 離脱についての報道が盛んだった時期で、ラジオやテレビで必要なナレーションの録音をするために、静かなカフェのトイレを探さなければならなかったという。こんな話があっていいのか。高級会員制クラブは RTÉ のトップがクライアントと商談などをするのに使われ、彼女自身はそんなクラブのことは知らなかったらしい。

こんな呆れるような金遣いでいい思いをしたのはほんの一部の社員だけで、多くの社員の給料は削減されていたことも指摘された。今回のスキャンダルに怒りを募らせたのは我々視聴者だけではなく、自社の社員たちでもあることは容易に想像がつく。

前述の高額所得のプレゼンター、ライアン・タブリディ Ryan Tubridy は現在50歳。ひょろっとした長身で群衆の中にいても目立つため、私はこれまで何回も彼をダブリンで見かけている。特に人好きのするタイプではなく、インタビューや話の進め方はスムーズだが彼の人間性がほとんど感じられない。どうしてこんな人が RTÉ の「顔」なのだろうとずっと思ってきた。

彼のような人に RTÉ が高額な給料を払うのは、そうしないとイギリスなどのメディアに流れていってしまうと懸念しているかららしいが、他国のメディアが大金を払ってほしがるかどうかは怪しい。

タブリディは RTÉ の人気インタビュー番組 Late Late Show の司会を14年も務めていたが、彼への「裏金」スキャンダルが明るみになる直前、「静かな生活がしたい」という理由で来期は続投しないことを公表していた。

彼は自分に支払われた金額についての告発に驚き、上乗せ分の金額は返すと言っている。しかし RTÉ との関係はどうにも不透明に映り、彼のイメージはこの夏、急降下してしまった。RTÉ ラジオでパーソナリティーを務めていた番組にはスキャンダル発覚後出演しておらず、今後の出演交渉は決裂。つい先週、番組に戻る予定はないことが発表された。

そんな彼が、自身のインスタグラムアカウントで意味深な投稿をしたという記事を今日読んだ。

 A new dawn, a new day, a new beginning. Stay tuned for more… 新たな夜明け、新たな日、新たな始まり。続報をお楽しみに。

どうやらイギリスの放送局 GB ニュースが契約の打診をしたらしい。タブリディ氏に静かな生活は訪れるのか。

今日は庭の一部に夫が春に植えたじゃがいもを収穫。

5つ植えた種芋(普通にスーパーで買ったじゃがいも)のうち 3つを掘った。これだけ採れたのでしばらくポテト料理が続くかな。