今週ダブリンで開かれているアート本の展示販売会は、その名も「Tsundoku Art Book Fair」。え、「Tsundoku ツンドク」?

この展示会のことを教えてくれた知人に「これ日本語の言葉だと思う」と言ったら、「そうなのね、いったい何のことかと思っていたのよ」と意味を尋ねられた。

読める以上に買ってしまった本がその辺に積んで置いてあるということで、「積んでおく」と「読む」をかけた言葉だと説明すると、「Learn something new every day! 毎日何かしら新しい学びがあるわね」と知人は面白がった。

でも、積読をアート本と結びつけたことはない。

Tsundoku Art Book Fair を主催しているのは PhotoIreland という団体だ。ダブリンのテンプルバーに拠点をおき、ビジュアルアートの展示や出版活動、さまざまなプロジェクトを通じてアイルランドの写真家のサポートをしている。何と Tsundoku Art Book Fair が初めて開かれたのは2011年らしい。このフェアの存在を今年まで全く知らなかったどころか、10年以上も前に私が「積読」という日本語を聞いたことがあったかどうかも怪しい。

主催者や出展者たちは「Tsundoku」の意味を知っているのだろうか。

Tsundoku Art Book Fair の会場はダブリン城の真正面にある The Printworks という建物で、PhotoIreland による現代写真展も同時に開催されている。

出展者はヨーロッパやアジアの 30ヵ国以上から来ており、自費出版をしているアーティストもいれば独立系の出版社もいたりと、体裁はいろいろ。

そのカラフルで繊細なデザインを目にした途端に駆け寄ってしまった Tara Books のブース。インドの都市チェンナイでアート本やカードをデザイン、製本、出版する彼らは、廃棄された綿からリサイクルされた紙を使用し、印刷の工程で出たミスプリントはノートブックの表紙などに利用している。手作業で作られた本は手触りからインクの匂いまですべてが愛おしく感じられる。

パリ在住の日本人アーティスト、Sayo Senoo 妹尾佐代さん。道端に捨てられたマスクや福島の汚染された空気といった普通なら顔をしかめるような対象のものをアート作品に変えている。

ゲイの人たちの出会いの場として知られる公園で使い捨てられたコンドームの写真は、佐代さんの手によって、広げると花のようになる『Fleurs』という本に昇華された。コンドームをこの公園で捨てたことがある人がこの本を手に取ったらどう思うか…興味がありますね。

ダブリンの会場に直接参加しなかった出展者の作品は、会場の一角にある机に積み上げられ、販売されている。

受付にいた主催者側の一人やアート雑誌を作っているアイルランド人の出展者に「ツンドクって意味知ってる?」と聞いたら、「Buy more books than you could read?読める以上に本を買っちゃうってことかな」とわりときちんと答えてくれたので感心した。

本を積み上げるとき、日本語ではなく英語など横文字のタイトルの本の方が様(さま)になりはしないか。床に本が並行に積み上げられていたら、横文字のタイトルはそのまますぐ見て取れる。

そういえば、数年前にパリのアパルトマン(アパートと書くよりフランス語っぽい)に泊まったとき、アパルトマンの持ち主は本好き、あるいは本が捨てられない性質のようで、大量の本が無造作に床に積み重なって置かれていた。地震の多い日本でやったら倒れてこないか心配になる高さだ。少し大型のハードカバーの本が主で、フランスの文豪の名前も古そうな本の背表紙に見つけた記憶がある。

部屋に本棚はなかった。積み重なった本がその部屋のインテリアになっていた。さすが芸術の都パリに住む人の感覚は違う、と思った。

だから、積読はアート。芸術の世界にいる人たちはこの言葉を早くからキャッチしていて、だから Tsundoku Art Book Fair なのだ。