仕事がオフで平日だった昨日、ずっと再訪したかったダブリン郊外の港町ホウス Howth でハイキングをしてきた。

5月中旬から信じられないほどのお天気が続いていて、出不精の私もさすがにどこかに行きたいとうずうずしていた。最高気温は20度、最低気温は10度ほどで風が心地よく、絶好のお出かけ日和である。

ホウス Howth はダブリンから約14キロ北西にある半島で、14世紀ごろから漁村として栄えてきた。今でも漁業が盛んで、新鮮な魚や加工品を売る店、からりと揚げたフィッシュ&チップスで有名なテイクアウトの店やシーフードレストランもたくさんある。週末にダブリンなどから「ちょっと足を延ばして」行くような場所だ。

私と夫が向かったのは、ホウス半島の断崖絶壁の遊歩道、クリフウォーク cliff walk の出発点のひとつだ。クリフウォークには距離や難度から5つのコースがある。数年前になぜか一番難易度の高いコースを歩き、かなりきつかった記憶があるので、今回は最もなだらかなコースの半分の道のりを1時間ほどかけて歩くことにした。

ダブリンから Howth まではダート DART という電車でも行けるが、バスなら終点の The Summit まで行き、そこから5分ほど歩けばクリフウォークの出発地。バス停留所近くなどにある地図でルートが確認できる。今日は黄色く印したところから海岸を北上し、指で指している辺りまでを歩く。

ここがクリフウォークの始まり。視界がパッと開いて青空と海が広がる。

遠くには半島の南にある灯台が見える。数週間前に日本に住む友人が、夕暮れに染まるこの灯台の写真が日本の新聞に掲っていたと教えてくれた。

平日ということもあって、クリフウォークですれ違ったのは外国人の観光客が多かったが、中には犬を連れた地元の人たちもいる。息を切らしている太めの小さな犬を連れたおじさんが、犬を休ませるためか、立ち止まって「Where are you from?」と私たちに話しかけてきた。

私が「Dublin」と答えると、「もともとはどこから来たの Where are you originally from?」と畳みかけるので、「Japan」と答える。

すると「オー、ヒサシブリ」と言うので私は目を見開いた。条件反射のように、「あ、お久しぶりです」とお辞儀をする。今日会ったばかりの人なのだが…。

おじさんは5年前に日本に旅行で行き、そこで少し日本語を覚えたそうだ。「久しぶり」は日本人のツアーガイドが毎日発していた言葉だと言うが、どんな状況だったのだろうか。日本は楽しかったようで、東京のホテルの外で迷子になっただの、ホームレスの人がスーパーマーケットのカートに家財一式を入れて移動しているのが興味深かっただの、いろいろ話してくれた。

「先週はここで日本人女性の4人連れに会ったよ。コンニチハと言うかアンニョンハセヨと言うか迷ったけど、『スミマセン』と後ろから声をかけたら全員ふり返ったんで、日本人だとわかったんだ」と、話し好きのおじさんである。最後に「君(の英語)、アイルランドなまりあるね。 You have an Irish accent」とお墨つきをもらって、「サヨナラ」をした。

足下を踏み外したら崖の下に真っ逆さま、というところもある。

遊歩道に点々と置かれているベンチや石柱などには、コーストガード(沿岸警備隊)につながる電話番号が必ず書かれていた。ここで命を絶つ人も少なくないようだ。

アイルランドの目 Ireland’s Eye という名の小さな無人島が見える。島には何千もの海鳥が巣を作っており、ホウスのふ頭から観光用のボートが出ている。

ホウスの波止場が見えてきた。

クリフウォークの遊歩道が終わると、そこからホウスの町の中心部まで約2キロ歩くことになる。コンクリートの地面になり興ざめしながら少し行くと、夫が道沿いにある白いコテージを指さしている。

コテージには、詩人・劇作家の W・B・イェイツが住んでいたことを示す石板が掲げられていた。イェイツは 15歳から 18歳の数年をこの家で過ごしたようだ。それから 2年後に彼の最初の詩集が発表されたので、ここですでに創作活動に励んでいたのだろう。この家からは、海、港、そしてアイルランズ・アイ島がよく見えるそうだ。

さらに歩くとまた海が視界に入ってきた。海藻のいい匂いもする。

ホウス駅の近くの道沿いに、海を見下ろす木の像が 3体があった。燃えるような赤い髪の人魚の数メートル横には漁網をたぐる漁師、そして船のへさきを飾る竜の頭の像だ。アイルランドの彫刻家による力強い作品だ。

平日の2時半過ぎという微妙な時間帯でも、ホウス駅の近くではお昼ご飯の選択肢には事欠かない。「やっぱりシーフード食べなきゃね」とレストランの外に出ているメニューを吟味し、ふ頭にある一軒に入ってみた。

新鮮な魚介類を提供するレストラン The Brass Monkey は地元民、観光客でにぎわっていた。

フィッシュ&チップスは一日中頼めるが、平日のランチのみ、シーフードチャウダーとのセットで16.5ユーロ(約2500円)というメニューがある(魚は小さめになる)。魚の衣 batter もポテトもカリカリ!

デザートは大好きなバノフィー・パイ banoffee pie。バナナと濃厚なキャラメルソースの味はやみつきになります。もちろん2人でシェア。

レストランの目の前には漁船が停泊している。

船のあいだでアザラシ seal がひょっこり海から顔を突き出していました。

ハイキングといっても歩いたのは正味1時間半ほどで、バスやレストランで座っている時間も長かったので、一日の歩数は1万6千歩。普段の日と比べてもさして歩いたわけではないが、新鮮な空気を吸い、ちょっと興奮していたためか、夜は本当によく眠れた。