最近ダブリンのレストランで、天ぷらや天丼を何回か食べた。日本で食べるサクッとした衣の天ぷらにはなかなかお目にかかれない。つゆにしても、天つゆがなかったり、味がどうにも頼りなかったりする。ないものねだりかな。

日本食レストランの話題になると、「あそこは日本人のシェフがいないから、おいしいわけがない」という言い方をする人がいる。私は誰が作ってもおいしければよいと思うが、「このシェフは本当においしい日本料理を食べたことはないんだろうな」と気の毒に思うことはある。そんな人の作るものを食べる私たちも気の毒だ。

2022年10月、浅草で藍染め体験をした後にいただいた日替わりランチ、太刀魚の天丼(850円)。しし唐もカラッと揚がっている。ダブリンでは考えられない値段だし、太刀魚も食べられないだろうな。

この越後屋さんではおいなりさんを持ち帰ったが、いなりの中のご飯が秀逸だった。

落ち着けるダブリンの居酒屋達磨 DARUMA でランチ。おなかがすいている人にはこの天丼のボリュームは嬉しい。チキンカツカレー(写真奥)は日本風のカレーが恋しい人にお勧め。

天ぷらというと、思い出すことがある。

ダブリンのレストランで初めて天ぷらを食べたというアイルランド人の友人が、「That batter was so nice」と言った。どうも衣のことをほめているというのはわかったのだが、なぜ「バター」なのだろうと驚いた。天ぷらの衣にバターが入っていたのか。とんだ「なんちゃって日本食」が出たものだ、と笑ってしまった。

天ぷらやフリッターなどの衣のことを batter というのを知ったのは、それからしばらく経ってからのことだ。私の耳には衣の batter も乳製品の butter も同じように「バター」と聞こえる。

Batter(小麦粉、牛乳、卵などを練り合わせた衣用の生地): 発音記号は bǽtər。Ba の a の母音は apple の a の発音と同じで、両ほほを左右に引っ張り、口を横にあけて「ア」と発音する。

Butter(バター):発音記号は bʌ’tər。こちらの bu の u の母音は、口を中くらい開けて、短く「ア」と言う。

衣 batter の a の発音「æ」はよく「ア」と「エ」の中間のような音だと表されるけれど、それはアメリカでの話だと思う。アイルランドではそんな、鴨がうめくような(?)「ア゛」という音には聞こえない。しかしバター butter の「ʌ」の発音をするときよりは確かに口は少し横に広めに開いているようだ。

アイルランドでは、「Dublin」や「bus バス」、「but でも」のような語の母音の u を、「ウ」のように舌を少し奥に引っ込めて発音する人が多い。のどに少し力がかかっている。「ドゥブリン」「ブス」「ブット」のように聞こえるのだ。もちろんアイルランドの中でも個人差、地域差はあるが、この「butter バター」も「ブタ―」のように言う人もいる。

私はそれでも、よほど注意してもこの手の発音は聞き分けられないことが多々ある。「がんばって Good luck! (グッドルック)!」と自分を励ますしかないでしょうか。