去年に引き続き、クリスマスは夫の実家のティペラリー県へ。イブの夜、ダブリンからコーク方面に向かう最終電車に揺られること約一時間半、到着駅では夫の兄が車で迎えに来てくれていた。

駅の近くに住む夫のいとこの家に立ち寄ったので、町から10キロほど離れた夫の実家に着くころには夜9時を回っていた。キッチン兼ダイニングルームに入っていくと、ソファでうたたねをしていたらしい義母の顔がほころんだ。一日中クリスマス料理の準備をしていたので疲れているのだ。

義母とはほんの3週間前にダブリンで会ったばかりだが、田舎で会うのとはまた違う。ここは彼女の領域である。特にクリスマスは、義母のペース、采配にすべてを任せるのが一番だ。私たちはその空気を読んで従うだけである。

夫の実家の家の表玄関に飾られた 2つのクリスマスリースは、写真右が義母のお手製。左は既製のものらしい。多くの田舎の家には出入口が 2つあるが、表玄関はほとんど使われない。家族や友人、近所の人はみな勝手口から出入りする。表玄関を使おうとするのは知らない人と決まっていて、チャイムが鳴ると家の人は「誰が来た?」と警戒するそうだ。

夫の実家にはもう何十回も来ているが、初めて来たのは結婚する前年のクリスマスだった。その少し前に「クリスマスは彼の実家で過ごすことになったんだ」と友人に軽く言うと、友人は大きくのけぞった。

「それは一大事! 彼氏のお母さんのクリスマスディナーを食べるってことでしょう、どうリアクションするか考えておかなくちゃだめだよ。」

そ、そうだったのか。この友人は夫と同じティペラリー出身なので、何だか余計に説得力がある。「この2つの表現を覚えるべし」と伝授してもらった魔法のほめ言葉は…。

  • ジューシー juicy  みずみずしい、肉汁がしたたるような
  • モイスト moist  しっとりした、うるおいのある

七面鳥は淡白で肉がすぐ硬くなり、食感もパサパサ(dry)になりがちな手強い食材だ。ほとんどの家庭では年に一度のクリスマスのときにしか調理をしないので、七面鳥を焼くというのは大きなストレスを伴うことらしい。このストレスを一気に解消し、作った人の労をねぎらう最大のほめ言葉が「ジューシー」と「モイスト」というわけだ。

はい、もちろん私はその年、将来の義理の母となる人の作った七面鳥をいただいて「うーん、ジューシーですねぇ、そしてモイスト~」と感嘆の声を上げました。友人に練習させられましたから。

それから早や 17年を経て、今年のクリスマス当日、例のごとく七面鳥の調理にかかる。去年は病気のため七面鳥を焼かなかった義母だが、今年は復帰。丸焼きではなく、胴体から足を切り分けて別々に焼くことで調理時間の短縮を試みた。お昼のクリスマスミサに行く直前に胴体をオーブンに入れ、教会から帰ってすぐに足の部分を入れる。ほかにも野菜を蒸したりジャガイモをゆでたり前日に作っておいた副菜を温めたりと、やることはいくらでもある。義母は分刻みのスケジュールで動き、メモを見ながら私たちに指示を出してくれる。

各家庭によってクリスマス料理の前菜はバラエティに富むが、夫の実家の定番はクリームチーズのスモークサーモン巻き。今年はそれにプロシュート(イタリア産生ハム)とぶどうが彩りを添えた。

メインディッシュは七面鳥のスライス、蒸し野菜、ローストポテトなど。グレイビー(肉汁)ソースと地元産のクランベリーソースでいただく。ターキーは本当にジューシーでした!

午後3時ごろに義母の妹の来訪とともに始まったクリスマスディナーは、デザート(義母の妹によるトライフル)を食べ終わるころにはすっかり夜の帳が降りていた。そもそもこの時期の日没は午後4時ごろなので、7時や8時になるともう夜も更けてきた気になる。

義母はこの日のためにミンスパイ(ドライフルーツの入った小さなパイ菓子)、豚肉ロースハム、ストロベリームースも作っていたが、ディナーでお腹がふくれたので翌日まで持ち越し。今年もクリスマス料理を食べ尽くしました。

クリスマス翌日、散歩のため近所のパブまで歩き、ウィスキーの効いたアイリッシュコーヒーをゆっくり味わった。