最近、私の職場では人の入れ替わりが激しい。新型コロナの影響が小さくなってきた今年の春以降、正社員さえも数人転職していった。

出る人があれば入る人あり。先週新たに入社、といっても一つの部署の長としてやってきたのは、香港出身の50代の男性だ。40人強の職場にこれまでアジア人は私を含めて3人いたが、私以外はアジア系のフランス人とカナダ人なので、アジア出身のアジア人は私とその人ということになる。男性のアジア人は初めてだ。小柄で、肩に届くほど長い白髪の多くなった髪を頭になでつけ、茶色の素敵な革靴を履いている。見た目にも「他の人たちと違う」雰囲気でいっぱいで、私は興味津々。

話をする機会はすぐにやってきた。スタッフルームでコーヒーを飲んでいると、彼ともう一人の人が入ってきて、彼のダブリンでの家探しの話が始まったのだ。今は仮の宿に泊まっていて、不動産屋を通じて何軒か賃貸フラット(アパート/マンション)を物色中だという。

「ダブリンでの家探しは大変だと聞いていたけれど、本当にそうだったよ」と割と高い声でエネルギッシュに語る。「きのう不動産屋が案内してくれたところは、いくら小さい僕一人にでも狭くて話にならなかったんだけど、まだ市場には出ていない物件が近くにあるというから行ってみたんだ。」

すると同じ建物に2軒空いているフラットがあったのだという。彼がそのうちで気に入ったのは、半地下だが明るく広々としている物件。

「でもちょっと躊躇しているのは、そのフラットの番号が13番だということと、フラットの入っている建物が通りの42番地だっていうこと。13は西洋では不吉な数字だし、42は香港では『簡単に死ぬ』という意味がある24を思わせて、あまりよくないような気がするんだ。ただフラット自体はすごく気に入ったんだよねえ。」

私も含め、その場にいるみんなは「気に入ったのなら契約すべきだ」「ぐずぐずしているとすぐに埋まってしまうよ」と失礼にならない程度に(まだ初対面なので)意見した。

私がダブリンで一人暮らし用のフラットを探していたのは2002年のことだが、かなり難儀をした。新聞(当時は賃貸物件サイトが普及し始めたばかりだった)に載っていた物件に電話をしてみると、いつも「It’s gone.」と言われて電話を切られた。「It (the flat) has gone. その物件はもうないよ」ということだ。この表現はこのとき覚えた。

その香港の彼はというと、私たちのアドバイスが功を奏したのか、次に会った数日後には、そのフラットを借りる契約をかわしたと笑顔を見せた。あとは鍵を渡してもらい、引っ越すのみだそうだ。

私が日本から来たというと、香港では一時期、日本人の女性の上司がいて、その人とは世代も同じで話が合ったと話してくれた。ますます親近感がわく。

香港だけではなく他の国でも仕事をしてきたようだが、アイルランドは初めて。香港の中国返還25周年にあたる今年、「一国二制度」の崩壊が進む香港を出る決心をした彼には、いろいろな事情もあるのだろう。今後もいろいろ話をしてみたい。

今週は Design & Crafts Council Ireland(DCCI)の主催するデザインウィーク。その一環として、トリニティ大学近くのカレッジグリーン College Green の一角(写真左の建物)で、アイルランドの装飾、ロゴなどの企画展示 が行われていた。

パブなどでギネスビールを注ぐディスペンサー「Guinness Hero Harp ギネス・ヒーローハープ」。これは 2020年に生まれた新型デザインで、吐出メカニズムに優れ、従来の製品より10パーセント安いのだそう。