何も考えない時間と「ワンクッション」
今週、日系美容室 MARU に髪を切りに行った。マッサージチェアーに深々と身をうずめてシャンプーをしてもらっていたとき、あまりにも気持ちよくて、一瞬意識が飛んでしまった。
シャワーのお湯の加減か何かを聞かれたときに「え?」と我に返った。ああ私は今、「頭の中に何もない世界」に行っていたのだな。
2021年にダブリンのテンプルバー Temple Bar の一角にオープンした美容室 MARU HAIR TOKYO。これまで美容室難民だった我々の救世主のような存在。日本人でないお客さんもたくさん来ています。
この、何にも考えない時間、必要だなと思う。
数年前、職場での人間関係などで悩みを抱えていたとき、初めてカウンセリングを受けてみようと思い立った。
仕事関係でのストレスのためにカウンセリングを受ける場合、福利厚生の一環として、会社の推薦する専門家に年に5回まで無料で相談に乗ってもらうことができる。自分がカウンセリングを受けていることは会社側には伝わらないようになっている。
別の部署の仲のいい人がそのカウンセラーのところに何回か通っていて、「話を聞いてもらうだけでも胸のつかえが取れるよ」と私の背中を押してくれた。そこで予約を取りつけるために恐る恐る連絡を取ってみると、しばらくは海外などに行っていて忙しく、会えるのは数週間先だと言われた。
何と、そのカウンセラーはオペラ歌手でもあるということ。なるほどクリニックのウェブサイトを見ると、プロフィールに歌手としてのキャリアも紹介されていた。どうも私が電話をした頃は、コンサートツアーに出る忙しい時期だったようだ。
結局、数週間後にカウンセリングを受けたときには、職場での状況も少しずつ改善されていたので、今悩んでいることの相談というより、どうしてそういう悩みをもつようになったのか、ひいては自分の思考回路のパターンなどについて話をすることになった。
「ちゃんとお昼休みとかは取っていますか」と聞かれたので、私は「時間いっぱい休憩することは稀で、だいたい食べ終えたらすぐに仕事に戻っていますね」と言った。メールなどの英語を読んだり書いたりするのが遅いし、残業ができないので(建物が就業時間のすぐ後に閉まってしまう)、休憩らしい休憩は取らないのが普通になっていたのだ。
「仕事が終わって家に帰ったらまず何をしますか」とも聞かれたので、「部屋着に着替えてからピアノの練習をしたり、夕飯の準備をしたりします」と答えた。
ふうむ、とカウンセラー。「あなたはいつも何かをしたり考えたりしていますね。」
確かにそうだ。
「寝ているときも仕事のことを考えたりしていませんか。それだと脳を疲れさせてしまいますよ。」
図星。
「お昼休憩のときに5分10分でも散歩に出るとか、通勤のバスの中ではメールチェックなどをしないで、ぼーっと窓の外を眺めるとか、好きな音楽を聴いたりして頭を休ませる練習をした方がいいですよ。」
なるほど。
家に帰って夫にカウンセラーからの助言について話す。「がんばってまた何かをする前に、リラックスする時間をもつことが大事なんだってよ」と言うと、夫はそうだよそうだよ、と同調する。
私が続けて「つまり何か難しいこととかをする前には、ワンクッションを置くべきだってことだよね」と言うと、夫は何だそれはという顔になった。
そうか、ワンクッション one cushion は和製英語だから、英語で言っても通じないのか。
面倒くさいのでそのまま流していると、夫は「何かをする前にリラックスすること」がワンクッションの意味かと取ったようだ。そしてそれが大事だということもインプットしたようだ。
以来夫は、夕飯を作る前(最近は夫がいつも夕飯係だ)や庭仕事をして次の用事にかかる前などに、「ワンクッション」と言ってコンピュータゲームなどをしている。先日は「今日は特に疲れたから two cushions 必要だ」と言っていて、いつの間にかワンクッションからツークッションズと複数形に変化させていた。
和製英語を英語に逆輸入すると、こんなことにもなるということで。
ダブリンのあちこちでこれからクリスマス市が開かれる。ダブリン城でもクリスマスマーケットが12月に催されるが、去年に引き続き予約制で、チケットはすでに完売。これはマーケットに立つ予定のクリスマスツリーかな。