いくらでも時間がつぶせる日本の本屋。昨今の日本の社会情勢、トレンドもよくわかる。今のご時世を反映して、旅行ガイド本のコーナーで『地球の歩き方』などの海外旅行の手引き本がぐっと減り、逆に国内旅行の本が主流になっているのが目についた。

本屋を回っていてひとつ気になったのは、「トリセツ」という言葉をタイトルに使った本が多いことだった。『人生のトリセツ』『東京のトリセツ』…トリセツって何? いろいろ考えた末、「取り立てて大切なこと」だろうか、と推測してから母に聞いたら、取り扱い説明書の略だと教えてくれた。何だ、考えすぎだった。ただ、従来の「機器や道具の取り扱い方や操作方法」という意味から離れ、もの以外の案内書や手引き、はたまた人の扱い方という意味にも使うらしい。

『人生のトリセツ』はいわゆる人生ガイダンス本、帯には「学校では教えてくれない人生の教養本」とあった。

日本の本屋は文房具も充実しているので、アイルランドへのお土産を買うのにも便利だった。

ダブリンの職場には、去年まで東京に6年も住んでいたイギリス人の同僚がいる。彼女に日本から何がほしいかと聞いたら、「ジェットストリームのボールペン。青いインクで、1.0mm の太さがいい」と即答が返ってきた。太字が好きらしい。軽いし安いし具体的なリクエストで大変助かる。私も日本の油性ボールペンを愛用しているので、ほかのチームメートにも皆ボールペンを持って帰ったら、案の定喜んでくれた。

アイルランドには特にお土産カルチャーはないが、常に誰かしらが休暇でスペインだのポーランドだのに行っていて、気が向いた人は当地のチョコレートやクッキーなどを買ってくる。スタッフルームに置いてあると一瞬でなくなる。

荷物の重さの制限もある中、日本くんだりからわざわざ職場にお土産を持って帰るなど誰も期待していない。だから気が楽だったが、私も日本人なので、帰りに成田空港で職場用にお菓子を買ってしまった。群馬の友人にいただいた「七福神あられ」も持って行くと、パッケージの日本らしさが目を引いたのもさることながら、特に男性陣から「いくらでも食べられる」と好評だった。

今回日本に行かなかった夫からは、「両刃のこぎり」を買ってきてほしいと頼まれていた。夫は DIY が好きで、今のプロジェクトは裏庭に小さな物置小屋(道具置き場)を建てることだ。それに使用する木を切るときなどに両刃のこぎりが役立つと思っているらしい。

日本のホームセンターには初めて入ったかもしれない。こたつやテント用品などを横目にのこぎりの陳列棚に直行。妹が「これは絶対日本製」と確認してくれた両刃のこぎりを買った。24センチの刃で、私のスーツケースにぎりぎりで入る大きさだった。

私が夫のために日本でやろうと思っていたのは、彼の持っている白い枕カバーを生まれ変わらせることだった。もともと私用に買った L字型の抱き枕を私より夫の方が気に入って使っているのだが、形が変わっているので換えのカバーがあまり売っていない。IKEAで買った白いカバーが色あせてきてしまったので、「そうだ、日本でこれを藍で染めてみよう」と思いついたのである。

台東区にある「和なり屋」という藍染め・機織り工房では、ハンカチや Tシャツなどの藍染め体験をしており、染める生地を持ち込むこともできる。私ひとりの予約だったが親切に対応してくれ、埼玉の実家で数日過ごしたあと、アイルランドから持って来た枕カバーを携えて工房を訪れた。

浅草にある「和なり屋」さん。江戸時代からの伝統的な色である藍色は東京オリンピックのエンブレムにも使われていたそうだ。

染める前の枕カバー。店内の暖簾や小物などの作品を見ていると、デザインのアイディアが浮かんでくる。

布を輪ゴムで絞って染料がしみ込まない部分を作ると、そこが白い模様になる。職人さんの手は、藍を毎日扱っている人の手!

生地をぎゅっと寄せて輪ゴムでとめる。この状態で染色液に漬ける。

瓶(かめ)に入った藍の染色液に漬けて内部までもみ込むことを数回繰り返す。けっこうハードな作業。

藍染めをして生まれ変わった枕カバー。入店から一時間強でできあがった。思い描いていた通りの大きな花火のような模様と、自然なグラデーションができた。職人さんの着ている洋服とスニーカー、全部藍染めですね。

実家で過ごしているとき、洋裁の得意な母が、ちょっちょっと手持ちの生地で新しい枕カバーを作ってくれた。ダブリンの寝室に飾った絵(ポスター)の色合いともぴったりで、夫もとても気に入りました。

私は海外旅行先で現地の人の作ったピアスを探す趣味がある。アイルランドではもうマスクを着用することが少ないので、最近またピアスを毎日のように着け始めた。そこで自分への日本のお土産として、組紐(くみひも)の産地の出身の友人に、くみひもでできたピアスをお願いした。

年配の職人さんが作ってくれたという組紐のピアス。日本の伝統工芸品を身に着けられるのは嬉しいものです。

さて、日本の洋菓子に目のない私は、日本にいるあいだ、バウムクーヘン、シュークリーム、モンブラン等を毎日食べた。アイルランドではこういった類のお菓子・ケーキ類はない(巨大なエクレアは売っているが、中のクリームが味気なく、パイ生地に載ったチョコレートが甘すぎる)。日本ではどこのコンビニでも売っているものでもそれなりに食べられるが、おいしいものはやはりおいしい。

数年前、妹がクラブハリエのバウムクーヘンをダブリンにお土産に持って来てくれた。今回初めて食べた治一郎のバウムクーヘンもしっとりとしていておいしい~。

治一郎のプリンも、ひと口食べてそのまろやかさと味に思わず目を見張った。さすがにプリンはアイルランドまで無事に持ち帰れそうにないので、バウムクーヘンを成田空港で買ってダブリンへのお土産に。またすぐ日本に戻っておいしいものが食べたい!