日本人に一番多い血液型はA型。ではアイルランドはというと、O型が一番多い。

アイルランドで2015年に3427人の献血者を対象に調べた血液型の分布を見ると、O型の人が突出して半数以上もいる。

A型:30パーセント、 O型:55パーセント、 B型:12パーセント、 AB型:3パーセント (A snapshot of ABO, RH, and JK blood group systems in modern Ireland by Anne Browne, 2021)

このデータによると、初めて献血をした人の14パーセントがアイルランド以外の国で生まれた人だったという。今はまだ白人の割合の多いアイルランドだが、今後ますます多民族化していくにつれ、血液型の分布も変わっていくと予想されている。

血液型は赤血球の表面にある抗原という物質によって決まるそうだ。血清学的方法によって多くの型に分けられるが、その中でも輸血の時に最も大切なのはABOとRhの2つの血液型。

Rh抗原にはいろいろあり、そのうちD抗原がある場合をRh陽性、ない場合をRh陰性としているそうだ。日本人は陰性の人がとても少なく、人口の0.5パーセントしかいないが、白人には多い。アイルランドでは16パーセントもの人がRh陰性だ。

私もアイルランド人の夫も、血液型はO型。だが私はRh陽性で、夫はRh陰性だ。ちなみに日本語ではRh陽性はRhプラス、Rh陰性はRhマイナスとも言うが、英語ではRh Positive ポジティブ、Rh Negative ネガティブと言う。ややこしい。

夫が初めて献血をしようと思ったのは、単純に、彼の行っていた大学に献血車が来たから。それから数年して何度目かの献血をしたときに、血液型が書かれた献血カードをもらい、それを見て初めて自分の血液型を知ったのだという。

夫の献血カード。「O RhD Negative(O型、RhD抗原は陰性)」と書いてある。アイルランドの約 8パーセントの人がこのタイプの血液型だ。

大人の日本人なら、自分や家族の血液型を知らない人はまずいないと思うが、アイルランドでは夫のような人は珍しくない。一生自分の血液型を知らない人も少なくないと思う。

輸血が必要なときとかはどうするの、と聞いても、「そんな場合は病院側がちゃんと調べるでしょ」と気にしていない。私はアイルランドでこれまで「どうして血液型を知らないの」といろいろな席で話題にしてきたが、みんな「ふむ、考えたこともなかったな」という態度だった。家族や友人が大病を患ったり輸血が必要だったりしても、血液型を知らなくて困ったという人はいないし、むしろ、「自分はこの血液型だと聞いていたのに、家族が輸血が必要で自分も検査したら、思っていたのと違う血液型だった」という話をされたことがある。

夫の血液型であるO型Rhマイナスは、誰にでも輸血できる万能な血液型だ。だが、同じO型Rhマイナスの人からしか輸血を受けられない。そのため夫には、「新生児や子どもがあなたの血液を必要としています」と数カ月ごとに献血の案内が来る。その度に何か大層な慈善活動でもするように、夫は予約を取っていそいそと出かけていく。

夫は今年、50回目の献血を達成。献血ルームのスタッフが「Bloody legend」と書かれた看板といっしょに記念撮影をしてくれた。Bloody は「血まみれの」という意味だが、単に強調表現としても使う(あまりお上品な表現ではない)。ここは献血というシチュエーションにひっかけたうまい表現。レジェンドはアイルランドではよく「He is an absolute legend! あの人は本当にすごい人だよ」のように人を称えるときに使う。最近日本語でも同様に言うのかな。

献血から数カ月後、アイルランド輸血センター Irish Blood Transfusion Service から立派な箱に入った表彰状とピンバッジが届いた。例年なら夕食パーティーに招待されて授与されるそうだが、パンデミック中なのでパーティーはないのが残念。

日本ではご存じのように、A型の割合が一番大きい。だがA型が約4割、O型が3割、B型が2割でAB型が1割というように、O型やB型もある程度いる。世界的に見ると、日本のような割合で分布している国は少数だ。日本と似ている血液型分布をとるのはフィンランドやハンガリー、トルコなど。

…と調べてきて、はたと思い当たった。日本語はフィンランドやトルコ語、ハンガリー語と似ている、と聞いたことがある。語形変化をするかしないか、どのようにするかという観点で言語をグループ化すると、これらの言語はどれも「膠着語(こうちゃくご)」というグループに分類されるのだ。血液型とこの言語の関係は興味深いが、ただの偶然?