いつも行く近所のスーパーにお昼ごろに行ったら、かなりの人でごった返していた。金曜だったせいか、昼食や週末の食材を仕入れる人などが各レジの前に行列を作っていた。

この光景を見て思い出したのは、英女王エリザベス2世の一般弔問だ。9月19日に行われた国葬の前の数日間、棺(ひつぎ)はロンドンのウェストミンスター宮殿内に公開安置された。女王に最後のお別れを言いに訪れた人々の列「the queue(キュー)」は何キロにも及び、ときには24時間以上も辛抱強く並んだ人たちがいたことが報じられた。

9月半ばで暑くも寒くもない気候だったが、そんなに何時間も外で立ち続けて「トイレとか大丈夫かな」と私はいらぬ心配をしてしまった。

もちろん、仮設トイレや簡易救護所はいくつも設置され、飲み物と軽食も列1時間ごとの地点に用意されたという。警官や1000人以上ものボランティアの人たちが列の整備や人々の援助に努めたそうだ。列に並ぶ際には色と数字の入ったリストバンドが渡され、用を足すために列を短時間離れても無事に元の場所に戻れるようになっていた。(ちなみにこのリストバンド、後日インターネットで売っている人がいました。)

一般人といっしょに長時間列に並んだ有名人もいた。サッカー元イングランド代表のデビッド・ベッカムは、「この時間に行けば少しは人が少ないかな」と午前2時に来たが、結局約13時間も並ぶことに。

ロンドンでも保守派の多い地域で育った彼は、祖父らがもし生きていたら同じことをしただろう、とスーツにネクタイ、帽子といういで立ちで列に並んだ。気軽に写真撮影に応じ、前後の人たちとプリングルズやドーナツを分け合ったというから、たまたまいっしょに並んでいた人たちには、たとえベッカムファンやサッカー好きでなくても一生に残る思い出になっただろう。

アイルランド人もイギリス人に劣らず礼儀正しく行列を作る人たちだと思う。スーパーや銀行などではよく長い列ができているが、みなほとんど文句を言わず我慢強く自分の番を待っている。道端のバス停にはときには何十人もの人がいるが、誰がどのバスを待っているのかわからないし、スペース的に列は作れない。お目当てのバスが来れば突進して我先に乗車しようとする、と思いきや、「どうぞお先に」とむしろ譲り合いながら乗車する。乗れなければ仕方なく次のバスを待つ。

日本に住んでいたときは、なぜか一分一秒が惜しくて、イライラしながら列に並んでいたなと思う。アイルランドでは、いくら混んでいても、レジや銀行の係の人は客と軽口をたたく余裕を忘れない。並んでいる方もそれを当たり前だと思って、自分の番が来れば天気の話や「もう少しでランチ休憩だからがんばって」などと声をかける。それで何秒かずつ時間を食うのだが、こういうちょっとした交流が大事なのだ。

あ、でもアイルランド人は「信号無視魔」としてよく知られている。店や銀行の列には従順に並ぶが、信号となると赤信号から青信号になるのが待ちきれずに、赤信号を無視して歩き出してしまうというのはいったいどういう心理なのだろう。