今回の旅行のハイライトは、ブダペストの市民公園の中に新しくできた音楽ホール。おとぎの世界に迷い込んだような空間で、どこを向いても口をあんぐりしっぱなし。また行きたい!

藤本壮介 Sou Fujimoto という、国際的に活躍している建築家がいる。ダブリンにも何度か足を運ばれており、数年前に建築関連のイベントで講演をされたとき、たまたま夫が聴きに行った。公園の中にある美術館ような公衆トイレや、本棚が渦巻き状に配置されている武蔵野美術大学の図書館、今かかわっているプロジェクトなどの話をされたそうだ。

その講演で見せた写真のひとつには、大学図書館で居眠りをしている男子学生の姿が。

「本棚を壁のように何層も囲むことによって、公の空間でありながら落ち着ける個の空間でもあるようにしたかったんですが、居心地がよすぎたみたいですね」と藤本さん。

そんな藤本さんの最新作のひとつが、ブダペストの市民公園にあるコンサートホール「Magyar Zene Háza(The House of Music Hungary)ハンガリー音楽の家」。170もの応募の中から選ばれたデザインということで、着工前から世界中の関心を集めていた建築物だ。ブダペストに来て見ずに帰る手はない。

ブダペストの市民公園 Városliget(City Park)は縦横 1.4キロと 0.9キロの長方形の公園で、動物園や美術館などを擁している。1896年にハンガリー建国 1000年を記念して建設されたブダペスト最大の広場、英雄広場もある。

公園の池の向こうには、15世紀にハンガリー王国の国王が贈ったルーマニアにあるコルヴィン城を模した城が。

公園の入口のひとつからほんの数分歩くと「音楽の家」が見えてくる。

屋根(丸い天蓋)にたくさんある丸い「穴」に木がそのまま伸びていく。建物を上から見た写真もご覧ください。

1階にはギフトショップも。

天蓋をびっしりと覆う金色の葉のモチーフが、自然の光の中で輝いて見える。建物の中に入ってもそれはずっと続き、自分が何か不思議な空間にいることに感嘆の声を上げずにはいられない。藤本さんは森の中に建つこの建築で、自然と人工の世界の調和の取れた変遷を目指したそうだ。

建物の中もこんな感じで外と一体化している。

たまたま取れたチケットは、ハンガリー人ミュージシャン Lukács Miklós 氏率いるジャズバンドのコンサート。

1階のコンサート会場はステージの後ろがガラス張りになっているが、コンサートが始まった夜8時にはカーテンが下ろされていた。そのカーテンが、演奏中にそろそろと横に開いて外の景色が見えてきた。演奏中なのでもちろん写真は撮らなかったが、夕焼け色の空に緑の木々が現れ、もう、魔法にかかったような瞬間だった。

アンコールでときにおしゃべりしながら演奏するミクローシュさん(写真左)は、ツィンバロンという打弦楽器の担当。

コンサート会場の天井も金色の葉とコルクのスピーカーで覆われている。

演奏が終わるころには夜のとばりが降りて、外も真っ暗になっていた。

夜は緩やかにライトアップされて幻想的になる。

私たちがこのコンサートホールを訪れた数日後、ハンガリーのテレビニュースで「今年1月のオープン以来、たくさんの人がコンサートや教育施設の使用のために音楽ホールを訪れています」と報道されていた。体験型の施設やワークショップで目を輝かせている子どもたちの様子などが映し出されていた。

子どものときにこんな夢のような場所に一度でも連れて来てもらったら、後々まで記憶に残る特別な経験になること間違いなし。音楽やデザインが大好きになるだろうな。

実は藤本さんはアイルランドと縁がある。四谷にできる「アイルランドハウス東京」のデザインコンペの審査員の一人だったのだ。

「アイルランドハウス東京」は、アイルランド大使館、外交・通商業務のオフィス、イベント会場、そして駐日アイルランド大使の公邸も入る総合施設だ。2019年にデザインを公募し、翌年ダブリンとコークに事務所を構えるヘンリー・J・ライオンズ設計事務所 Henry J Lyons のデザインが通ったと発表された。最近着工され、2024年竣工予定。完成した暁にはぜひ訪れたい。