日本がゴールデンウィークに入る直前の先週、私は勤め先のパート社員の採用面接を行った。

5月に入ってお天気はまずまず。わが家の裏庭に時々訪ねてくるキツネは、昼間も悠然と日向ぼっこをしている。こちらが窓を開けるとさっと去っていくその逃げ足の速いこと。

日本語で「アルバイト」と書くか「パート」と書くか迷ったのだが、この2つに法律上の違いはないらしい。日本では「アルバイトは学生やフリーターのため」「パートは主婦や主夫のため」というとらえ方が一般的なので、アルバイト求人は学生が働きやすい夕方や週末、パート求人は主婦の働きやすい昼間、またパートは長期勤務が求められる業務内容になることが多いようだ。

私は会社の採用担当者ではないが、同じチームの社員やパート社員の採用にはかかわっている。主にやるのは、送られてきた履歴書に目を通し、人事担当者といっしょに面接を行うことだ。

私が日本でアルバイトを探したり、就職活動をしたりしていたのは90年代。履歴書の形式は決まっていて、全部手書きだった。重要な書類なので修正液を使ってはいけないということで、間違ったら最初から書き直し。おかげで履歴書を何枚無駄にしたことか。

ソニーが91年に従来の履歴書に代わって「エントリーシート」を導入し、大学名よりも学生時代にどんな研究や活動をしていたのか、その会社や会社製品の印象や入社後何がしたいのかを書いて送る、という流れに変わり始めていたが、私の周囲ではまだまだ既成の履歴書が主流だった。写真も一枚一枚貼らなければならなくて、郵便で送る。今はメールに添付してワンクリックで送れてしまうのだから、楽だなと思う。

アイルランドでは履歴書の書き方はかなり自由だ。履歴書のことはアメリカ英語では resumé レジュメだが、アイルランドではアルファベットで CV と言う。Curriculum vitae の略で、ラテン語の course of (one’s) life「ある生命がこれまで歩んできた道」から来ているそうだ。

名前の後はふつう、一段落ほどの簡単な自己紹介。例えば販売サービス、宿泊や飲食業の職種に応募するならこんな感じ。

私は礼儀正しく几帳面な性格で、明確な目標をもって、その目標に向かって努力するタイプです。何年も顧客相手の職業に従事し、「人の話に常に耳を傾ける」ことを大事にしてきました。それが売り上げにもつながるし、チームでのコミュニケーションも円滑になると信じています。

それから職歴、学歴だ。職歴は、どんなことをやったのか、どんな責任のある仕事を任されたのかを簡潔に、かつ具体的に書くのが望ましい。また、社員ではなくアルバイトとして接客の経験があればそのことももちろん書き、それも含めて「何年もサービス業に従事してきた」と堂々と言う。

自分の写真を載せたり生年月日を書く人もたまにいるが、私は個人的には、そういう情報は特に必要はないと思っている。それよりも、応募書類を送付するときにいっしょに送るカバーレター cover letter に力を入れるべきだ。送付時のメールの本文として書いてもいいが、ここで志望動機をきちんと書いておき、履歴書では見落とされがちな点を明記しておくとよい。どうしてその仕事がしたいのか、自分を売るのだ。でもあまり長くない方がよい。

毎年のようにこのパート社員の採用を行っているが、過去2回は新型コロナのためオンライン面接だった。今回は晴れて応募者と顔を合わせての面接。やはり実際会って話せるのはよい。

面接中、私たち面接官はマスクを着用していた。アイルランドでは今年2月28日よりほとんどの場面でのマスク着用義務がなくなったが、私の職場ではまだ常にマスクを着用しているのだ。面接される側はマスクはしなくてもよい。オンラインだと相手にリラックスしてもらう雰囲気を作り出すのはなかなか難しかったのだが、実際に会って話をすると、たとえマスクをしていてもお互いの反応が手に取りやすく、いい面接ができたという手ごたえがもてた。

新しい人が入ると、職場に新鮮な風がふっと入りこんでくるようだ。クセのある人だったりするとその風に翻弄されることになるのだが、それはそれで刺激的だ。長年いる職場なので、少しくらい刺激がある方が面白い。

仕事がオフだったきのう、うっかりマスクを持たずに外出。バスの車窓から、色とりどりの花を庭に植えている女性が見えた。公共交通機関でも映画館でも今やほとんどの人はマスクは着用していないのだが、映画館では息がかかるかどうかの距離に人が座ったので居心地悪し。

今月はフランソワ・トリュフォー監督特集が。何本観られるかな。