日本語ではスープや味噌汁を「飲む」と言うが、英語では動詞「食べる eat」を使う。「味噌汁を飲む」は「eat miso soup」だ。

新型コロナ以前、不定期で少人数の社会人グループに日本語を教えるコースを受け持っていたのだが、今月そのコースが復活した。日本語のまったくの初心者か、少しかじったことがある人が対象で、週一回、一カ月だけのコースだ。日本の観光名所や食べ物などの話をしながら、日本に旅行した際に役立ちそうなあいさつや簡単なフレーズを紹介している。

レッスン会場は、ダブリンを東西に走るリフィー川沿いにあるオフィスの会議室。この写真はそのオフィスの近くにかけられた橋から撮ったもの。写真中央のドームのある建物はアイルランドのかつての税関、カスタム・ハウス The Custom House。

今週のレッスンで生徒さんにちょっとお話ししたことは、お味噌汁をお箸でどうやって飲むか how to eat miso soup with chopsticks ということ。これには私の日本でのある経験が関係している。

20年前、ダブリンに移る少し前に、それまで勤めていた会社の先輩が「送別会」として大阪の素敵な日本料理のお店に連れて行ってくれた。カウンターに座り、小鉢や小皿で出てくる季節の料理を次々にいただく。マスターは先輩と知り合いで、カウンター越しにときどき会話に混じってくれる。

料理の終盤、いわゆる『止め椀(とめわん)』のお吸い物をいただいていたときに、マスターが「さっきから見ていて気になってたんだけど」と私に言ってきた。

「お椀の持ち方、それ見苦しいのでやめてほしい。」

えっと思って手の中にあるお椀に目をやると、私は左手の人差し指をお椀の縁にひっかけて持っていた。

「普段はこんなことお客さんに言いませんよ。でもこれから海外に出るような人には、日本のマナーっていうのかな、きちんと知っておいてもらいたいと思って」と、マスターは四本の指をそろえてお椀を下から支え、親指だけ軽く縁に添える持ち方をして見せてくれた。

全く自分では気づいていなかったことであり、いっしょに食事する人がなかなか指摘してくれるようなことでもないので、言ってもらって本当によかったと思っている。

ダブリンで日本料理レストランに行くと、お味噌汁や丼ものを持ち上げないでテーブルの上に置いたまま、口の方を食器に近づけて背中を丸めて食べている人がよくいる。ああ、見ていられない。胸元まで持ち上げて食器を口に近づけたらお箸で食べやすいですよ、と言ってあげたくなる。マスターも私のお椀の持ち方を見て、こんないたたまれない気持ちだったに違いない。

さて、日本語のレッスンでは、お椀の持ち方、そして「箸で味噌汁の具をつまんで食べる」、「汁はスプーンですくうのではなく、箸で具をおさえた状態で、お椀に口をつけて飲む」ということを説明した。みんな何だか難しく感じたようだ。お椀や丼ものは手に持って食べるということだけでも今後実践してくれたら嬉しい。

私はこのようにお箸も正式な持ち方ができないのですが、生徒さんにはきちんとした持ち方を一応示しました。