ウクライナを想って
気がつけばこのブログを開設して丸一年が経っていました。読んでくださってありがとうございます。
前回の「Wordle」の記事で50本目。この2週間、書きたいことはいろいろあるのだけれど、ウクライナのことが気になってほとんど何も手に着かない。ほんの一週間前まで普通に仕事をして家庭生活を送っていた人たちが、家も仕事も何もかも捨てて自分の国を離れなければならないなんて。しかも夫や恋人や息子や兄弟たちとは離れ離れになって。
アイルランドに住むウクライナ人男性たちが、ロシアと闘うためにウクライナに戻っていく姿が数日前に報道された。私のようにアイルランドに20年も住んでいる男性もいた。送り出す奥さんや子どもたちは「つらいけど、お父さんの気持ちがわかる」と言っていた。
アイルランドはヨーロッパ大陸から少し離れた島国なので、まだかなり遠い場所で物事が動いているような気もする。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は我々の日常生活にも大きな影響を及ぼす。日本でも原油やガソリンが値上がりしているように。
欧州(EU)は天然ガスの4割近くをロシアから輸入している。その一部はウクライナを経由するパイプラインで運ばれており、その供給不安から、ガスの価格は昨年から高騰している。アイルランドでは電気の半分以上を天然ガスによる火力発電でまかなっているため、電気料金も大きく高騰した。
また、最近まで知らなかったのだが、農業大国であるウクライナから、欧州は大量の農業食品を輸入している。主な食品のうちウクライナからの輸入が占める割合は以下のとおり(2020年、Access2Marketsより)。
- 鶏肉 20%、鶏卵 11%
- ハチミツ 31%
- トウモロコシ 56%、小麦 15%
- ひまわり油 19%、菜種油 34%
- 肥料 12%
アイルランドももちろん、ウクライナからこうした農業食品を輸入しているため、ウクライナの危機はこの国の食料供給の危機にもなりかねない。アイルランドの農業食料海洋省の大臣は近く農業団体と話し合いをし、「小麦や大麦などの穀物を植える」ことを促すらしい。
きのう観た長編アニメ映画『Flee フリー』は、少年時代にアフガニスタンから脱出したアミンという男性の話。父親がタリバンに連行されたまま帰らず、首都カブールはますます危険を増したため、すでにスウェーデンに移っていた兄の助けで家族で旧ソ連のモスクワに移る。観光ビザはすぐに切れ、警察の手に落ちることを恐れてアパートに閉じこもる日々。非道な人身売買ルートを使って命からがらスウェーデンの兄に合流した姉たち。アミン自身はさらに数年かけてデンマークに亡命した。今は研究者として成功を収めているが、過酷な運命に翻弄された少年時代の傷跡が20年経った今でも大きく尾を引き、恋人の男性にもなかなか心を開くことができない。
彼と周囲の人たちの安全を守るため、アニメ仕立てとなっており、時おりアミンと関係のある当時のニュース映像が挟みこまれている。静かだが腹の底に語りかけてくるようなパワフルな作品だった。日本では6月に公開予定。
『Flee』を観て、フィンランドの名監督アキ・カウリスマキの『希望のかなた』(Toivon tuolla puolen: 2017)という作品を思い出した。生き別れの妹を探して偶然ヘルシンキに流れ着いたシリア難民の青年の話だった。
やむを得ず祖国を脱せざるを得ないウクライナ難民の数は、すでに150万人に上っている。
アイルランドのそこここでウクライナの国旗が掲げられている。黄色と青の横二分割旗は、帝政ロシアからの支配下にあった1848年にウクライナ民族の旗になり、1992年の独立の際に国旗に制定されたそうだ。「黄色は小麦、青は空」を表すという。