ロマンチックなアイルランド人
バレンタインデーが近づくにつれ、お店やレストランはハートや赤やピンクの飾りつけであふれるようになった。
去年の今頃は厳しいロックダウンの真っ最中で、近所のスーパーに食料の買い出しに行くことが大きな行事だったことを思えば、今年はまだマスクが必要とはいえ、自由にお店やレストランに出入りできるようになって初めてのバレンタインだ。新型コロナ以前であれば、週末のレストランやバーはバレンタインデートのカップルであふれていただろうが、今年は2月14日が月曜日ということもあり、どこもそれほど混雑している様子はない。
今も日本ではバレンタインデーのときに、好きな人やお世話になっている人にチョコレートを渡すのだろうか。アイルランドでは、恋人や夫婦間でカードを交換したり、ちょっとしたギフトをあげる習慣がある。週末のテレビでは、「まだ間に合うバレンタインギフト」と題して、街の店やオンラインで簡単に手に入るギフトを紹介していた。
アイルランドの郵便ポストは緑色。バレンタインカードを送るのにぴったりのハート形の切手が最近売り出されたらしい。
バレンタインギフトの定番は、やはり赤いバラの花。この時期はブーケを抱えて急ぎ足で家に帰る様子の男の人をよく見かける。30代、40代の男性が多いような気がする。
私は2002年にアイルランドに移ったとき、半年ほど英語の語学学校に通った。アイルランド人家庭にホームステイをしていたクラスメイトの一人が、「ステイ先のお父さんとお母さんは、毎週金曜日がデートナイトなんだよ」と教えてくれたことを思い出す。
その家庭は小さい子どもが数人いたが、金曜の夜はベビーシッターに子守を頼み、両親は自宅の居間で「デート」。キャンドルをともし、ワインを飲みながら2人で夕食を食べたり映画を観たりするのだ。何てロマンチック。こういう家庭のお父さんがバレンタインのときには花束を家に持って帰るのだろう。
かくいう私の夫も、ロマンチックな部類に入るのかもしれない。結婚前、私の誕生日に赤いバラの花束をプレゼントしてくれたことがある。それを飾るための花瓶まで買ってきてくれた。しかしロマンチックのロの字もない私がまず考えたことは、「何かタイミングが悪いな」だった。すでにいっしょに住んでいたのだが、翌々日から数日家を空けることにしていたので、留守中に花瓶の水を取り換えなくても大丈夫だろうか、という心配をまず先にしてしまった。
何よりも、私は普段から花を飾ったりはしないし、特に花が好きなわけではない。こういうことはきちんと言葉にしないと伝わらないので、夫には「ありがたいけれど、私は今後は花はいらない」とはっきり言った。ああ、ごめんなさい。夫は傷ついただろうが理解してくれ、その後は私の誕生日には私の好きな手間のかかる料理を作ってくれるようになった。これもロマンチックですよね。
スーパーで見かけて思わず買ってしまったハート形のパスタ(トマトとリコッタチーズ入り)。バレンタインデーの夜は、家でこれを食べてから私はピアノのレッスンに出かけます。