あっという間に1月も終わり。アイルランドでは季節の移ろいを自然や食べ物から意識することは日本にいたときより少ないが、日照時間の変化で「春が近づいてきたな」とわかる。

12月21日の冬至の前後の数週間は、朝真っ暗な中に家を出て仕事に行かなければならなかった。それが最近は、家を出る朝8時はまだ暗いが、バスを待っている間にも少しずつ空の色が変わってきて、ダブリンの街中に到着するころにはすっかり明るくなっている。

日が暮れるのも遅くなってきた。1月末の日没時間は5時ごろなので、冬至のころよりも1時間も遅くなっている。仕事が5時半に終わって外に出ると、日没後のまだ空がうっすら明るい、いわば黄昏の最後の数分が楽しめるようになった。

今週、夕方5時ごろの黄昏どきの空。近所のスーパーから帰る途中だったが、思わず立ち止まって赤と青の空に見入った。太陽が地平線の下に沈んだ後でも、大気による太陽光の散乱によりしばらくは明るい状態が続く。これを薄明(はくめい)と言うそうだ。英語だとトワイライト twilight。

こんなときにアイルランド人は嬉々として、「There’s a grand stretch in the evenings! 」と言う。

ストレッチ stretch は伸びることだから、つまりは「夕方がいい感じで伸びてきた」という意味。イブニング evening は「太陽が沈んで徐々に暗くなり、完全に暗い夜となる直前まで」なので、その時間帯がだんだん長くなってきたということだ。

また、少し強調するために a grand auld stretch と auld をつけることもある。Old の古い言葉で、これはアイルランドではフクロウ owl と同じように「アウルド」と発音する。

グランド grand の代わりにグレイト great も使えるが、アイルランドではグランド派の人が大多数だと思う。同僚も「祖父がよく使っていたから私も great より絶対 grand って言う」と教えてくれた。

この grand グランドは、アイルランドで本当によく聞く言葉。外国人にアイルランドの英語の特徴を挙げろと聞いたらまず出てくる。

ふつう英米で使われる形容詞としての grand は、「見事な」「雄大な」「壮大な」といった意味で、例えば「グランドホテル」は「豪奢で立派なホテル」ということである。アイルランドでも同様の意味で使われるが、それとは別に、grand は独り立ちして様々な場面で使われている。

  • That’s grand. または Grand. =「了解」「(それで)いいよ」「大丈夫」といった意味。
  • I’m grand. =I’m fine と同様の意味。また、「大丈夫?」と聞かれたときなどにの返答として「私は大丈夫」「平気」といった意味でも使う。
  • You are grand. =誰かが謝ってきたときや自信がなさそうなときなどに、「大丈夫ですよ(気にしないで)」と相手に言ってあげるときの表現。

Fine、okay(OK)、alright の代わりにいろいろな場面で「Grand!」と言えるようになったら、アイルランドにすっかり慣れてきたという証だ。

アイルランドではつい先日の1月22日、新型コロナウイルスにかかわる行動制限措置がさらに緩和された。レストラン、パブなどの夜の営業時間の制限がなくなったし(しばらくは午後8時までだった)、海外渡航時を除いては「EUデジタルコロナ証明書(ワクチンパスポート)」を見せなくてもよくなった。公共交通機関、小売店、学校などでのマスクの着用は2月末までになり、その後どうするかは月半ばに見直すことに。

日本ではワクチンの種類の選り好みをしたり、副反応などを気にしてワクチンを受けたくない人も多いようだけれど、アイルランドでは成人のほとんどがもう3回目のワクチン(ブースター)を接種済みだ。まだ勢力を振るっているオミクロン株に感染しても重症になるケースが少ないことで、「このままいけるかも」というムードが高まってきていることも事実。

政府の強気の策に、「急にこんなにリラックスしちゃってダイジョウブなの?」と最初は思ったが、日も長くなってきたこともあって、何だか「暗~いトンネルをやっと抜け出ている」ような明るい気分に。政府が希望を与えてくれてよかったと今は思っている。