アイルランドのお店では今、冬のセール真っ盛り。クリスマスが明けた途端にセールを始めるところもある。軒並み日本よりも値下げ率が高く、半額、中には70パーセント引きなんてところもある。人でにぎわうグラフトン通りから一本外れて、久しぶりに無印良品 MUJI をのぞいてみた。

自動ドアで店内に入り、レジに立っている店員さんの方を見たが目は合わず、「ハロー」と言いそびれて何となく気まずくきょろきょろしてしまう。

MUJI もセールをしていたが、午後3時ごろの店内は特に混雑はしていなかった。

それにしても懐かしい。MUJI の開店は2002年の秋。私がダブリンに移って約半年後のことで、私は数ヶ月ここの店員として働く機会に恵まれた。店内のレイアウトや雰囲気はこの20年間ほとんど変わっていない。

一階に文房具、雑貨、コスメ・ケア用品、階段の踊り場に収納用品、地階にはキッチン用品や洋服が売っている。食品類は扱っていない。

私がここで働いていたときには日本円の定価が印刷された商品が多く、それを隠すようにユーロの値段シールを貼っていた。日本の無印で買うより3倍くらいの値段がするものもあり、それは今でも変わらない。でもペンやノート、収納ラックを買うならここ、と固定ファンが少しずつ増えてきた。

アイルランドに MUJI はこの一軒のみで、ブティックホテルやレストラン、バーなどを経営している Press Up というグループが所有している。この会社は近くに日本食レストラン Wagamama も持っているので、MUJI の新規オープンにあたっての研修時には、ワガママにみんなでお昼を食べに行ったりした。そのときに半端ではない量と大ざっぱな味に少なからずショックを受けたのだが、海外の日本食レストランの多くはそんなものだと今ではわかる。

MUJI では販売、在庫チェックなどをしていたが、英語で数えたり計算したりするのにはなかなか慣れなかった。そもそも値段が覚えられない。英語ネイティブのスタッフはすぐに「このペンはいくら、こっちのノートはいくら」と売れ筋の商品の値段を覚えるのだが、私は8.75といった数字を見て「はってんななじゅうご」あるいは「8ユーロ75セント」とつぶやけば何となく頭に残っても、「エイト・セブンティファイブ」と英語で頭にメモするとすぐに記憶から消え去ってしまい、困った。

「New erasable ballpoint pen €2.95」、新商品のこすって消せるボールペン、日本の無印良品では定価 150円だが、アイルランドでは 2ユーロ95セント(約 385円)。

それから20年。今の仕事では年末に棚卸(たなおろし)inventory をし、その監査 audit が年始にある。棚卸とは、保有している在庫を実際に目で見て現物を確かめ、その数量をカウントすることだ。そのカウントをもとに在庫リストを作成すると、棚卸の現場に外部の会社から監査人が来て、在庫リストの数値が合っているかどうか確かめる。去年は監査人が現場に来られなかったので、Zoom でカウントチェックを行ったが、今年は現場でいっしょに数えて確認。もちろん全部数え直すわけではなく、私たちの場合は30から40の品目をチェックされる。

監査の女性に「次はこれを数えてください」と言われて、私は「ワン、トゥー、スリー…」と一つひとつ数え始める。20くらいまで数えて「残りは隣の部屋にあります」と移動してまたカウント。「こちらには35あります」と言ったが、さっきカウントした数がもう思い出せない。「最初の部屋には18ありましたね。You counted eighteen in the first room」と監査の女性が助け舟を出してくれる。そうそう、エイティーン。「じゅうはち」と数えていたら、絶対に覚えているのにな、と何だか負け惜しみ。

合計を求めるときも、一桁ならともかく、二桁同士になると「18足す35で53」、と日本語に変換した方が早く計算できる。20年経ってもこうなのだから情けない。

何年か前に読んだある記事が思い浮かぶ。通訳についての話で、「母語から別の言葉に訳す方が、その逆よりやりやすい」ということだった。なるほどな、と思った。以前、ちょっとした通訳をしたときに、英語から日本語に訳すときは、英語のセンテンスが長くなると覚えられず、「すみません、もう一度最初から言ってください」をくり返さなければならなかった。だが日本語から英語に訳すときには、一度聞いた日本語がある程度頭に残るので、何とか一度にまとまった量を訳すことができた。

数字も言葉だと考えると、英語の数字がなかなか頭に入らないのは仕方がないのかな。