2002年にアイルランドに移り、ホストファミリーの家を経て初めて一人暮らしをするようになったとき、日本料理が作りたければお米や醤油などをアジア系の食料品店で買わなければならなかった。

今では普通のスーパーでも味噌や料理酒やミリンなどの調味料が売っているし、海苔や豆腐、大根なども手に入るのでしごく便利だ。アジア系の店に行けばこのように、たいていの日本食品が棚に並んでいる。

私のよく行くアジア系スーパーの日本食品コーナー。だいたい日本の値段の1.5倍から2倍はします。でも背に腹は代えられない。

ダブリンには今や日本食レストランがあちこちにあるし、わが家には炊飯器もあるので、日本食が食べられなくて恋しくなることはあまりなくなった。ただ、日本で季節ごとに味わえる旬のものはさすがに遠方のヨーロッパでは手に入らない。この時期は日本のスーパーには「秋の味覚」と言われる秋刀魚(サンマ)、栗、梨、柿などが並ぶのだろうだが、果物はアジア系スーパーで売っていることはあっても、まずサンマやししゃもは見かけない。

かぼちゃはハロウィーンのこの時期はどのお店でも売っているが、飾りつけ用の巨大なものばかり。試しに小さめのものを買って調理したこともあるが、食べても大味(おおあじ)でおいしくない。

スイカくらいの大きさのかぼちゃはひとつ約500円。

この時期はハロウィーンや秋の季節の飾りつけをしている店のショーウィンドーが通る人の目を楽しませてくれる。キッチン用品のお店 The Kitchen Whisk はオレンジ色でまとめ、グラフトン通りにある老舗カフェ、ビューリーズ Bewley’s はホオズキを飾っている。

先日、ダブリンのスティーブンス公園 St Stephen’s Green から徒歩10分ほどのアイヴィー庭園 Iveagh Gardens に行ってきたが、そのとき庭師さんから、horse chestnut tree が数年前からある細菌による被害にあっているという話を聞いた。イギリスではこの病原菌のせいでもう何万本もの木が枯れているという。アイルランドでも被害は深刻で、他のもっと丈夫で成長の早い木への植え替えが進んでいるそうだ。

「僕が庭師の見習いだった40年くらい前には、ニレ立枯病(にれたちがれびょう Dutch elm disease)という病気が世界中に広がっていて、アイルランドでも何万本もの楡(にれ)の木を処分して植え替えなければならなかったんだ。こういう病気が何年かに一回発生するのは仕方がないね。」

チェスナット chestnut と聞いて私は栗だと思い、病気だというのでまず考えたのは「もう栗は食べられなくなるのか」ということ。しかしアイルランドではよく見かけるこのホースチェスナットと日本の栗の木は違う種類の木だった。

Horse chestnut tree は日本語ではセイヨウトチノキ、あるいはマロニエ(フランス語の marronnier から)という。アイルランドでは200年ほど前から森林や公園、街路に植えられてきたそうだ。種子はトチの実というナッツのようなもので、食用ではないらしい。

よかった、栗は大丈夫なのね、と安心したが、アイルランドで栗の木は見たことがないような。しかし昨日、ダブリンの南のマウントメリオン Mount Merrion にある公園に、大きな栗の木を発見して私は一人で色めきだった。

このすぐ近くに住む友人を訪ねるときにいつも通り抜けるディアパーク Deer Park。この公園は、14世紀からこの辺りの地主だったフィッツウィリアム家が18世紀初めに造った庭園の名残りである。鹿 deer はいません。

見事な栗の木。小ぶりの栗がたくさん落ちています!

公園内には犬を連れて散歩している人が多い。「Dogs must be kept on lead. 犬は引き綱(リード)をつけなければならない」という看板を完全に無視している飼い主も。

友人と会った帰りにまた公園を通ると、栗を袋に入れて集めている男の人がいた。家で焼き栗にでもするつもりなのかしら。私は栗ご飯が食べたいから少し拾ってくればよかったか。でもそれより、モンブランが食べたい。

来週末にロンドンに数日行くので、モンブランをぜひ食べてくることにしよう。