同じ名前だらけの家族
先週末は義母の誕生日だったので、夫の地元のティッペラリー Tipperary 県に行ってきた。こちらでは60歳、70歳などのゼロのつく歳は大きく祝うことが多い。義母の今回の誕生日もそれに当たる。
パンデミック下でなければもっと盛大に祝いたかったところだが、それでも義兄と私たち夫婦だけでなく、義母の兄弟2人も招いて総勢6名でのレストランでの食事ということで、久々に活気のある集まりとなった。
ダブリンからほんの30分も電車に乗ると、羊や牛がたむろする放牧地が車窓に広がる。
ティッペラリー県のサーレス Thurles の町の大聖堂。今回行ったレストラン、ミッチェルハウス Mitchel House はここから徒歩5分ほど。
私の頼んだメイン料理は焼き鱒(ます)のチンゲン菜添え。サーモンのような肉厚の食感。
義母と夫はサーロインステーキを注文。ブラックペパーコーンソースが効いていた。
夫の兄は、すでに他界している夫の父親と同じ名前である。義父の生存中は、義兄と義父のどちらのことを話題にしているのかややこしいこともあった。以前から聞いてみたかった「どうして長男に同じ名前をつけたのか」という質問を義母にしてみる。
答えは「そういう伝統なのよ」と至ってシンプル。横で義母のお兄さんがフィッシュアンドチップスをほうばりながら「ほら、僕の名前だって僕の祖父の名前から取ったんだよ」と教えてくれる。何でも父方と母方のおじいさんが同じ名前だったから、長男である彼の命名は簡単に決まったようだ。このように、親戚の中に同じ名前がごろごろしている。
義母は「私の父親か夫の父親の名前にしようかとも考えたけどどうもしっくりこないから、夫の名前を長男につけた」と続ける。当の本人の義兄は横でふむふむとうなずく。義父と義兄は全く同じ名前で同じ綴り。郵便物などで「これどっち宛て?」と悩むことはあっても、何とかなってきたという。
アイルランドでは、長男にはその家系に幾世代も受け継がれてきた名前をつけるという伝統がある。そういう名前はそもそもキリスト教の聖人の名前から来ていることが多いため、あまりバラエティがない。自分の家族や親戚だけでなく、周囲にも自然と同じ名前の男の人がたくさんいることになる。女性も同じで、昔はだいたい長女には聖母マリアの英語名であるメアリーという名前がつけられた。だから義母やそれ以上の世代にはおびたただしい数のメアリーが存在する。
ちなみに次男である私の夫の名前は、アイルランドの高名な裁判官と同姓同名になるようにつけられたそう。
本屋やギフトショップで売っているチョコレート。板チョコのパッケージによくあるファーストネームが印刷されていて、その名前の人へのちょっとした贈り物になる。キアン Cian、コナー Conor、ダラ Darragh、オーエン Eoin はアイルランドでよく見かける名前だ。
家族や近しい親戚で同じ名前というのは紛らわしいので、ニックネームで呼んだり、その名前のバリエーションやアイルランド語版で命名することもよくある。例えばジェームス James ならジム Jim、ジミー Jimmy、ジェイミー Jamie などで、アイルランド語ではシェイマス Séamus になる。(母音の上にちょんとついたマークはファダ fada と呼ばれるもので、母音を長く伸ばして発音する。)また、ファーストネームではなくミドルネームで呼んだりもする。
日本では、子どもに自分や祖先の名前から漢字一字を取って与えるというのはよくある話だ。私も母親の名前から一字をもらっている。しかし、子どもに自分や夫(妻)と同じ名前をつけようという発想はないのでは。
そもそも戸籍法では、同じ戸籍に在籍する者に同じ名前をつけることはできないそうだ。戸籍にふりがなはつけられないため、読み方を変えても漢字が同じならだめだということ。実際にそういう例が昔あったらしい。
昭和38年(1963年)、父親がその妻「伸子(のぶこ)」とのあいだに生まれた娘を「伸子(しんこ)」と名づけようとしたが、「世人が同一戸籍内で特定することは困難であるから、かような出席届は、名の特定の困難な命名として、本法の違法な届出というべきである(名古屋高裁・高等裁判所判例集16-8-664)」と却下されている。
職員の数は40人ほどの私の勤め先にも、同じ名前の人が多い。ジョン、ジェニー、シネード(Sinéad アイルランドで多い女性の名前)は2人ずついるし、メアリーにいたっては3人もいる。職員の募集があるたび、「紛らわしいから同じ名前の人を雇わないでほしいよね」と皆で冗談を言い合っている(けっこう本気)。
夫の実家の庭にはりんごの木があり、この時期たくさん実をつける。酸味の強い青りんごなので生のままではなく調理して食べる。
地面に自然に落ちたりんごは鳥がついばんでしまっているので、高い枝をデッキブラシなどで揺さぶって実を落として収穫。
小さいスーツケースがいっぱいになるほど獲れました。アップルパイやりんごマフィンを夫が作ってくれるのが楽しみ。