今年の4月にアイルランドの人口が500万人を超えたという。これは1851年の国勢調査以来のことだそうだ。首都のダブリンの人口は143万人で、国全体の28.5%にあたる。

ちなみに、アイルランド Ireland または Éire という国名は俗にいうアイルランド共和国 Republic of Ireland のことで、同じアイルランド島にある英国領の北アイルランドは含まない。北アイルランドの人口は現在約190万人なので、アイルランド島全体で見ると人口は700万人近くということになる。 北海道とほぼ同面積の島だが、北海道の人口は現在約520万人。アイルランド島の方がかなり人口密度が高い。

アイルランドのパスポート。ビザ(査証)なしで、パスポートだけで旅行できる国と地域の数を比較したランキングで毎年上位に入っている。

アイルランドは移民の国だ。他国に移民するのはエミグレーション emigration で、他国から移民してくるのはイミグレーション immigration になる。今年度の調査では、アイルランドに入国した移民の方が出て行った人たちよりも多く、それが人口増加となり、500万人達成につながった。

ダブリン中心部のリフィー川沿いにある入国管理局 Garda National Immigration Bureau。私ももちろんアイルランドへの移民 immigrant なわけで、数年に一度はここに赴き外国人登録証の書き換えをしなければならない。

今回の人口統計のニュースで私が注目したのは、12.9パーセントがアイルランド以外の国籍の人たちだったという点だ。つまりアイルランドに住む8人に1人が非アイルランド人ということになる。でも特にダブリンでは外国人の割合はもっと多いような気がする。

アイルランドは多重国籍を認めているので、自分の国も多重あるいは二重国籍可であれば、アイルランド国籍を取得しても祖国の国籍を持ち続けられる。そういった人たちはこの統計で「非アイルランド人」ではなく「アイルランド人」の方に入っているだろうから、もともと外国から来た人たちの割合は12.9パーセントよりもっと多いはずだ。

1851年以来の500万人というが、当時は1845年から7年続いた「ジャガイモ飢饉(Potato Famine または Great Famine)」の終わりの頃だ。主要食物のジャガイモの疫病が発端で起こったこの飢饉で、アイルランドでは約100万人が餓死及び病死をし、1845年からの10年間で少なくとも100万人が外国への移民を余儀なくされた。飢饉になる前にはアイルランド島(現在の北アイルランドも合わせて)には800万人以上が住んでいたというから、2021年の今でもまだまだその数字には遠く及ばない。

ジャガイモ飢饉での難を逃れるためにアメリカ合衆国やカナダに渡ろうとしても、ひどい衛生環境により航海中に命を落とす人たちが多かった。1848年に処女航海をしたジーニー・ジョンストン Jeanie Johnston という船には当時としては珍しく正式な医師が同船、アイルランド南西のケリー県ブレナーヴィル Blennerville からカナダのケベックまで193人全員を無事に運び、木材を積んで帰ってきた。16回の航海で合計2500人のアイルランド移民を海外に送り届けた。ケリーのブレナーヴィル風車博物館 Blennerville Windmill & Visitor Centre に船の模型がある。ダブリンには実物大の模型船があり、移民船での生活の様子を知ることができる。

数年前、息子さんがジャガイモ飢饉当時のアイルランドを舞台にした映画の制作に関わっているという女性と話すことがあった。「エキストラを見つけるのにすごく苦労をしているらしいの。最近の人はみんな体格がよくて、飢えて死んでいくようには見えないんだって」とため息をつく。

と、私を一瞥して、「あなたみたいな人ならエキストラにぴったりなんだけど」と言ってきた。私はこちらの人たちからするとやせていて健康的に見えないらしい。やはり筋肉をつけないと。それはともかく、「私みたいな体格の人、アジア人なら普通にいますよ」と言ってみて、お互いに「その当時のアイルランドにアジア人はいなかったでしょうね」と苦笑。

その映画は無事に完成し、『Black ‘47』というタイトルで2018年に封切られた。飢饉の一番ひどかった年の1847年が「ブラックフォーティーセブン」として知られているからだ。邦題は『リベンジャー・スクワッド 宿命の荒野』と、アイルランドのアの字も感じさせないネーミングだ。

私がエキストラとして出ていたかもしれない(?)映画だが、テーマが重くアクションが多いために未だにどうしても観る気にはなれない。『クライング・ゲーム』(The Crying Game: 1992)に主演したスティーブン・レア Stephen Rea をはじめアイルランド内外の実力派俳優が勢ぞろいしているのだが。