ケリーで約一週間のステイケーション staycation を楽しんだ私たち。実は旅行に発つ直前の7月19日、不要不急ではない国外への渡航が再開され、アイルランドへの入国者の受け入れも緩和された。

EU加盟国からアイルランドへの入国は、EUデジタルコロナ証明書 EU Digital COVID Certificate (DCC) 、いわゆる「ワクチンパスポート」があれば、入国後の自己隔離をしなくてもよくなった。イギリスを含め、EU諸国以外からアイルランドに入国する人も、ワクチン接種証明書があれば(もしくは180日以内に新型コロナから回復していれば)自己隔離は免除に。

8月5日時点でアイルランドでは人口の57%がワクチン接種を完了している(日本では人口の33%、大丈夫?)。日本と同様にアイルランドでも若年層の感染が話題になっている。そこで3連休だった先週末限定で、ウォークイン walk-in (予約なし、飛び込み可)ワクチン接種センターが国内の40か所にオープンした。16歳以上なら身分証明書を見せればワクチンを打ってくれる。

今年初めに新型コロナに感染した隣家の息子さんは、3週間前に接種一回で済むジョンソン&ジョンソン社のワクチンを打った。「副反応がひどかったんだけど、接種しないでまた感染するよりいい」と言っていた。お友だちの何人かは先週末にこの予約なしのワクチン接種センターに行ったそうだ。何時間も並んだというが、とにかく接種できてみんなほっとしている様子。この「予約なしでもOK」の接種センターは若者にも好評だったため、今週末もまたオープンする。さらに、来週からは12歳以上のワクチン接種の予約が始まる。

行こうと思えば海外へも行きやすくなったけれど、いつまた状況が一変するともわからないから、私の周囲では今年は海外旅行は控えるという人が多い。

ダブリンのグラフトン通りにある本屋 Dubray デュブレーで見たポスター。休暇で自国の魅力を再発見しよう、というメッセージ。

だから今年は国内でステイケーションだ。ディングルで2泊したB&Bの女主人は、予約したのが私の名前だったから海外から来たのかもと思ったのだろう、「ようこそアイルランドへ!」的な出迎えをしてくれたが、私の話す英語を聞いたとたん「何だ、ダブリンから来たのね」と身内扱いに態度を一変。私が「ダブリンに20年住んでます」と言うと、「私はドネゴール(アイルランドの北西部の県)からケリーに移り住んで40年になるのよ」。ドネゴール訛りはそのままだが、ケリーの見どころには詳しくて、お勧めのレストランや観光スポットをいろいろ教えてくれた。

旅行中はまだまだ海外からの観光客は少なく、出会う人々はたいていアイルランド人か、私のようにアイルランド在住の外国人。「やっと休暇が楽しめるようになってよかった」という思いは共通で、「この一年半、困難な境遇をいっしょにくぐり抜けてきた」という仲間意識みたいなものを行く先々で感じた。

アイルランドの最西端でヨーロッパの最西端でもあるディングル Dingle 半島。半島の最西端にあるダンモア岬 Dunmore Head も『スター・ウォーズ』のロケ地になった。

この日もいいお天気で、ダンモア岬近くの砂浜には人がたくさん。

ドライブ中、羊のメェメェと鳴く声はたくさん聞こえたのだが、羊よりも牛を見ることの方が多かった。羊は着込んだ毛皮で余計に暑くて、どこかの木陰に避難していたのかも。

泊まったエムラー・ロッジ Emlagh Lodge のすぐ外にはディングル湾が広がる。湾沿いの小道を歩いて10分ほどで街中に出られるので立地もよし。

この夕陽の写真を撮る直前、ポーランド人のカップルとすれ違った。夫が男性の方と目礼を交わしているので「知ってる人?」と聞くと、ダブリンの地元のショッピングモールに入っているお店の店長さんだそう。It’s a small world. 世界は狭い。アイルランドは特に。

ディングルの街にはたくさんレストランやパブがあるが、まだ屋外での飲食のみしか許されていなかった時期なのでテーブル席が限られており、事前予約がベスト。予約を忘れた私たちはレストラン難民になって少し街をさまよったが、外の食事メニューの看板にあった「カレー」の文字にひかれてカランズ Curran’s というパブに入った。そろそろご飯ものが恋しくなっていたのだ。

メニューをよく見ると、「ディングルで獲れたアンコウ monkfish と自家栽培の野菜の入ったラクサカレー Laksa curry(ココナッツ風味のカレー)」と、何とも凝っている。実はこのパブの食事はお隣のレストラン、グローバル・ビレッジ Global Village が提供しているのだという。去年のロックダウン中、「ウェットパブ wet pub」と呼ばれる食事を出さないパブは営業ができなかったため、ウェットパブだったカランズは隣と提携を始めたのだ。コロナ禍のもとでサバイバルのために生まれた策が功を奏した。

パブではテイクアウト用の容器で食事が出された。アンコウ入りのカレーは18ユーロ。4ユーロ50セントのサラダにも自家栽培野菜がたくさん。この2つで私たちはお腹いっぱいになった。この旅行で一番おいしかった食事かも。この料理を作ったグローバル・ビレッジはディングルで1、2を争う名レストランで、ミシュランガイドでも紹介されている。レストランで食べたらもっとお高くついたでしょう。

ディングルウィスキー蒸留所で作られているディングルジン。エルダーフラワー入りのトニックウォーターと割って飲んだ。

B&Bの朝食で出されたギリシャヨーグルトとラズベリーやブルーベリーのコンポート。オーツ麦とドライフルーツも。女主人のマギーによると、以前はマスカルポーネチーズとナチュラルヨーグルトで作っていたという。絶賛したフランス人の宿泊客に材料を打ち明けたら、「マスカルポーネチーズを毎日朝から食べてたなんて、どれだけカロリーを取っていたか…」と大ショックを受けたそう(だから余計においしかったんでしょうが)。以来、ギリシャヨーグルトに変えたそう。

ディングルの街にはアイルランドの手作り製品を扱う小さなお店がたくさんあって楽しい。

革製品のお店のマスコット犬、「暑くてかなワン」。

リズベス・マルカヒーの織物の店 Lisbeth Mulcahy Weavings では、このお店独自のデザインのマフラーを買った。

そのマフラーの上に置いたマグカップはマルクス・ユングマン Markus Jungmann の磁器。オリジナルケリーギフトショップ Original Kerry Gift Shop という店で見て私も夫も一目ぼれしたが、購入には逡巡。ダブリンに戻ってからも忘れられず、結局オンラインで手に入れた。

ニット製品の老舗ケリーウーレンミルズ Kerry Woollen Mills で買ったスリッパ。10歳と4歳の娘さんをもつ店員さんとおしゃべりが弾んだ。上の娘さんは「いつまで手の消毒とかしなくちゃいけないの」とうんざりしているが、下の娘さんにとっては物心ついたときから当たり前のこと。幼稚園でも家でも、遊ぶ前と遊んだ後は手とおもちゃの消毒をし、お店に行くと真っ先に「ハンドサニタイザー(手の消毒ジェル)はどこ?」と探すそう。

旅行の締めは、ディングル生まれのマーフィーズ Murphy’s のアイスクリーム。ダブリンにも支店があるが、ケリーの牛のミルクで作られたアイスクリームはディングルで食べるのが一番。

ダブリンに戻って数日してから、野鳥観察の好きな友人にスケリッグ・マイケルで見たツノメドリ puffin などの写真を送ると、何と私たちと同じ週に彼女も旦那さんとケリーを旅行していたことが判明。週末にバーベキューに呼んでくれ、お互いの旅行話に花を咲かせた。