オリンピックマラソンのゴミ箱
ダブリンは最高気温が20度に上がるかどうかのいつもの8月に戻ってしまった。アイルランドの観測史上の最高気温は、1887年6月にキルケニー城で記録された33.3度。だから7月に30度前後が数日続いたというのは異常で、今回の東京オリンピックで選手たちが経験した高温と高湿気の状態が少し想像できる気がした。
オリンピックの開催には賛否両論あったけれど、新型コロナや世界中の異常気象などの気がかりなニュースが多い中で、少しでも明るい話題があってよかったと思う。ただ私の周囲では、2019年に日本で行われたラグビー世界杯ほどの盛り上がりはなし。何人かに「スケートボードの日本人すごかったね」と言われたが、その後にだいたい「でもあれがスポーツというのは…」と続き、時代の流れについていけない自分たちにお互い苦笑するというパターンだった。
アイルランドの期待を一心に背負ったケリー・ハリントン Kellie Harrington 選手(ボクシング、軽量級)の試合は、放送時間がこちらの朝6時ということで、日曜だががんばって起きた人も多かったよう。見事、金メダルを獲得!8月10日の凱旋帰国のもようはニュースのトップで取り上げられた。
私がこのオリンピックで注目してしまったのは、アイルランド代表チームが選手村に移る前の事前キャンプのときに泊まっていたホテルだ。静岡県袋井市の葛城(かつらぎ)北の丸ホテルというところで、ラグビー世界杯のアイルランド代表団もここに泊まっていたという。「選手村のホテルは監獄のようだった」とジャック・ウーリー Jack Wooley 選手(テコンドー)が帰国後のインタビューで言っていたが、「その前のホテルが本当にすごかったから」と認めていた。確かにこのホテル、素敵!
アイルランド代表選手の中では、バドミントンのナット・ヌーエン Nhat Nguyen 選手に目を引かれた。英語の発音や態度から、アイルランド生まれかと思ったら、6歳のときに家族でベトナムから移民してきたのだそうだ。
ナットの両親はダブリンで中華料理のテイクアウト店を経営している。子どもたちに食べさせるため、よりよい環境を与えるために身を粉にして働いてきた。去年の最初のロックダウンの際、ナットは数週間バドミントンができず、配達や野菜の下準備などをして両親の店を手伝った。普段なら遠征試合などで飛び回っているような自分をずっと支えてきた親の働く姿を目の当たりにして、より深い感謝の念を抱くようになったという。オリンピックで2回戦で強豪と当たって惜しくも敗れたとき、インタビューで家族への感謝を口にしていた。
「They have worked very hard for us and I am pretty sure that they are working today as they work all day every day. I’m happy I made them proud. That is why I play badminton. 僕と姉のために両親は一生懸命働いてきたんだ。毎日、一日中働いてね。だから(試合日だった)今日も働いているはずだよ。僕のことを誇りに思ってもらえて嬉しい。そのためにバドミントンをしてるんだから。」
いい子ですねえ。21歳のナットは数年前からアイルランドの大手保険会社のブランド大使でもある。ステレオタイプのアイルランド人とは見かけも境遇も違う彼のような「新アイルランド人」が、今やこの国の代表として活躍しているのを見るのは私も嬉しい。
さて、オリンピック終盤の見どころはもちろん長距離マラソン。走りに集中したいのに、どうしても気になったものがある。沿道に置かれた大きな段ボールのゴミ箱だ。
(画像は2021年8月6日の Eurosport 放送より。)
「走っている最中に、わざわざあそこにウォーターボトル water bottle(ペットボトルは和製英語)とか捨てろってことかな」と夫に言うと、「あれはゴミ箱なの?」という返事。
「ダストボックス dust box って書いてあるでしょ。」「そういう英語はないと思う。」
ダストボックスはアメリカ英語なのかと思ったが、和製英語だった。「ゴミ箱」はアメリカでは trash can や garbage canというようだ。
こちら(イギリス英語)ではラビッシュビン rubbish bin だが、ほとんどの場合ビン bin とだけ言う。「Put it in the bin. そのゴミ箱に捨てて」という具合。
ゴミ箱だとわからなかったから、余計に選手は使っていなかったのか。むしろ混乱させただけかもしれない。パラリンピックでのマラソンの際には、「Dust box」はやめた方がいいと思う。
Litter も不要物のこと。Bruscar はアイルランド語でゴミ。
ダブリンの街中に置いてある公共のゴミ箱。左手の角にあるのは日本食レストランバー UKIYO(浮世)。この写真を撮ったあとランチをしました。
日替わりランチセットが12ユーロで、この日はチキンと野菜炒め、エビフライ、サラダとサーモンの海苔巻き、ご飯とお味噌汁。すごい量。