おそらく優秀な郵便屋さん
朝8時過ぎに家を出てバス停まで歩く途中、よく郵便配達の人とすれ違う。お互いに片手を上げて「おはよう! Morning!」と挨拶。若くはないその人は冬ではない限りいつも半ズボンをはき、自転車でバス停近くの担当地区を周っている。
別の郵便屋の一人からは、自転車ですれ違いざまに「ダイジョウブ?」と声をかけられたことがある。私には時々日本から郵便物が来るので、日本人だということはもちろんバレバレ。だが「コンニチハ」でも「ゲンキ?」でもなく、「ダイジョウブ」?
英語で普段「Are you all right?」、くだけて「オーライ?Alright?」と言うと、「あなた大丈夫」と心配しているのではなく、「調子どう」という挨拶だ。日本語の「大丈夫」も似たような感じで使えるが、日本語に少し慣れていないと使わないだろうから、この郵便屋さん、日本に行ったことがあるのではないかと踏んでいる。
わが家は住宅地にあるが、バス停の近くの道は小さい野原の横を走っている。道の先に見える家々の前にバス停があるのだが、靄(もや)で隠れて見えない。この日はお昼までにはすっかり晴れ渡りました。
去年のロックダウン中、コークに拠点のあるワインショップがバーチャルで試飲会を始めた。申し込むと試飲用のワイン(3種類のワインを2本ずつ、合計6本)を郵便で自宅まで送ってくれる。普段なら試飲会の一週間前には届くので、開けて飲んでしまう誘惑を抑えるのに苦労するのだが、一度、待てど暮らせどワインが届かないことがあった。
ワインショップに問い合わせると、「〇〇日に発送して、翌々日にはお宅に配達されたはずです」と郵便局からの配達完了の記録までていねいに付けてメールが返ってきた。ここでもし私が強気で「でも届いていない! 試飲会にも間に合わなかった!(ちなみに試飲会は録画されているのでその日以降いつでも見ることができる)」と抗議すればきっと黙ってワインを再送してくれただろうが、まずは近所に聞いて回ることにした。
他人との接触をなるべく避けるため、郵便物や荷物の受け取りはまだ非対面だ。署名も求められない。多くの場合、配達の人はチャイムを鳴らしたあと、玄関ポーチに荷物を置いて去ってしまう。誤って届いた場合、それに気づいても配達の人や車をつかまえるのにはすでに遅しだったりする。
他人の家のポーチにある荷物を盗む人がいるとは思えない地域なので、配達ミスがあったのではないかと考える。というのも、近所に似たような名前の通りがいくつもあるからだ。
わが家は「さくらんぼ」のチェリー cherry で始まる名前の通りにある。すぐ近くにチェリーアベニュー、チェリーロード、チェリードライブなどがあり、チェリードライブ10番地のはずが、チェリーロード10番地に配達されてしまったというように、ごくたまに誤配が生じるのだ。日本では間違えて他人の郵便物が届いた記憶はないが、こんなに似たような名前の住所がいくつもあればややこしくて、郵便屋さんを責めるのもかわいそうだ。
- Road:乗り物が通るための長く固い表面の道。
- Street:建物が両側にある公共の道。Avenueと垂直になっていることが多い。
- Avenue:Street と同様に建物が両側にある公共の道。
- Drive:山などを形どったように曲がった道。
- Lane:細い道。
私の家と同じ番地の、別のチェリー何とか通りにある家の一件目に行ってみる。ここは20代後半から30代の3人くらいがシェアしている家だ。数年前、そこの住人の一人に宛てた車雑誌がわが家に間違って届いたために、渡しに行ったこともある。
「あそこの通りの同じ番地に住む者なんですが、先週あたり、ワインが間違えて届きませんでしたか」と尋ねると、「6本もワインが届くなんてありがたいことは絶対なかった」という返事。「そんなことでもあれば同居人同士で話題にしている」と力強く言うので信じることにする。
次に、夫といっしょにまた別の通りの家に行ってみた。今度は老婦人がマスクをして戸を開ける。「あそこの〇番地宛ての荷物が、間違って届いていませんか」と聞くと、「どんな荷物だというの」と警戒した様子。「ワインなんです、コークのお店からです」と答えると、奥を振り返って旦那さんらしき人と話し始めた。そしておもむろに私たちに向かって「ここにある箱、あなたたちのね。持って行ってくれる?」と言い、家に少し入るように促してくれた。
「私たちには重くてあなたたちの家まで運べなくて、どうしようかと思ってたのよ。一度お宅まで伝えに行ったんだけど、不在だったようで」と奥さん。「ビールだったら開けてたよ!」と家の中から旦那さんが笑いながら叫ぶ。実は郵便局に連絡をして、受け取りと再配送の手筈を整えたところだったが、それはキャンセルしておくと言ってくれた。
ワインの箱を抱えてほくほくと帰宅し、ワインショップにメールで事の顛末を伝えると、「そんなことがあったのね、知らせてくれてありがとう」と喜んでくれた。
日本の友人が送ってくれた雑誌を首を長くして待っている毎日。去年は止まっていた日本からアイルランドへの航空便は今年になって再開されたが、以前より配達に数週間は長くかかっている。もし間違って別の人の家に配達されても、日本語の雑誌では持っていても仕方がないだろう。「これお宅のですよねー」と届けに来てくれることを期待する。
トリニティ大学からすぐのイル・フォルナイオ Il Fornaio というイタリアンのテイクアウト店で久しぶりにお菓子を買った。
この店はシチリア発祥の焼き菓子カノーロ cannolo (写真下の段の右)で有名。ピスタチオクリームの入ったものと、チョコレートとリコッタチーズの入ったものがあり、一つ4ユーロ。二人で分けて食べてちょうどいいほどボリュームたっぷり。