「ヨガをしてあげてください」
先週の4月29日、ロックダウンを段階的に緩和していく政策がアイルランド政府から発表された。5月10日からは県外への移動が可能になり、屋外の小売店は営業できるようになる。図書館や美術館などの文化施設もオープンし、美容室も予約客のみに対して営業再開、教会の礼拝も再開する、等々。17日からは小売店全店が営業可能になる。
さらに6月にはホテル、ジムやプールなどのスポーツ施設のオープン(個人トレーニングのみ)、そして屋外であればレストラン、パブも営業できる見通しだ。待ちに待っていました、という感じ。何しろ食事を出さないパブは去年の3月以来ずっと閉店を余儀なくされていたのだから。
こうして行動制限措置を和らげることができるのは、ワクチン接種が進んできているからだ。ワクチン接種者数をアップデートしているウェブサイトの5月3日現在のデータでは、人口の4分の1弱にあたる約117万人が一回目のワクチンを接種しており、そのうちの44万人が2回目のワクチンの接種を終えている。ワクチン接種が完了した人同士なら、来週からはマスクなしで屋内で会うことも可能になる(3世帯まで)。
日本の2020年の流行語大賞は「3密」だそうだが、こちらでは「ニューノーマル new normal」という言葉がよく使われるようになった。コロナ禍で、これまでは必要のなかったことや考えもしなかったことが「普通のこと」になったからだ。2メートルの距離を空けながら人と接すること、マスクをしてお店やバスなどの公共交通機関を利用すること、そして消毒、消毒、消毒! どれも面倒だが、みなが守ることで安全な空間を作り、ビジネスが再開し、学校教育も滞りなく行えるようになるのなら、このくらいの不便さは何でもない。
私も来週で自宅勤務が終わり、毎日職場に通うことになる。この長いロックダウンの中で、体がなまらないようにラジオ体操、エアロビクス、ヨガなどを試してきたが、今後も続けていけるかどうか。日本の家族は任天堂の Switch を去年買って、リングフィットアドベンチャーとやらのフィットネスゲームをしているそうだが、私はいつも YouTube 動画にお世話になっている。動画をテレビのスクリーンに映して、インストラクターの指示を見ながらストレッチやエクササイズをするのが日課だ。
お気に入りに登録しているチャンネルのほとんどは、エクササイズか料理かピアノの演奏・弾き方のコツ関係のものだ。自分好みのチャンネルを探し当てる前、いろいろな動画を手当たり次第に見ているとき、どうにも気になったことがある。「~してあげる」を連発する人が多くいたことだ。
ヨガの指示:「パソコンで酷使した眼を休ませてあげましょう」「コリをほぐしてあげてください」「今度は反対側もしてあげます」
「してあげる」とは、相手に何かの行為を提供する場合の表現。ヨガをする動画視聴者にていねいな指示を出そうとしているのだろうが、「休ませる」「ほぐす」という行為の恩恵を被るのが眼や肩などの身体の一部のように聞こえておかしい。
料理の作り方:「ここで少し水を足してあげてください」「玉ねぎを薄めに切ってあげます」「ごま油を最後にかけてあげましょう」
料理になってくると、その行為を受ける対象は食材なのか、食べる人なのか。「あげる」は抜きで、「水を足してください」「ごま油をかけます」で十分。
そもそも「何かを誰かにしてあげる」という表現は、わざと自分をへりくだって「あなたのためにやってあげる」と恩着せがましく聞こえる言い方だ。この表現を多用する人がやっている動画はもう見ないことにしている。
ヨガといえば、2~3年前、日本人のインストラクターにヨガを教わっていた。その方は今はデュッセルドルフにお住まいで、ヨガのレッスンはお休み中とのこと。ダブリンでは、わが家で二週間に一度、一時間半ほどのレッスンをしていただいていた。まずは基本の呼吸法から入り、その日の体調や体の柔軟度に合わせて様々なポーズに挑戦。日頃の忙しい心と身体にひとときの安らぎを与える貴重な時間だった。自宅でインストラクターに直接教わるという、コロナ禍では考えられないぜいたく…。
チャンネル登録をしているコウケンテツさんのレシピ、「豚肉で作るストロガノフ」。粒マスタードが隠し味。