前回に続いて、日本の YouTube 動画を見ていて気がついたこと。

ハヤシライスを市販のルーやデミグラスソースなしで作る動画を見て、「これならうちでも作れそう」と急に食べたくなった。夫が作ってくれるというのでいっしょに動画を見直して手順を確認していると、「ポイントって言葉、よく出てくるよね」と夫がボソリ。

これは家庭料理研究家の奥薗壽子(おくぞのとしこ)さんの動画だった。「ここがおくぞの流のポイントです」と、まず玉ねぎを短時間であめ色に炒めることの重要性が強調される(何と5分であめ色に変身!)。さらに、玉ねぎの切り方や炒め方、牛肉の小麦粉のまぶし方や焼き方など、押さえどころが口頭で説明されるのと同時に「POINT」と画面に文字でも説明が出てくる。

舞茸は手に入らないのでマッシュルームで代用した奥薗流ハヤシライス。短時間で作れるのに、お肉と野菜をじっくり煮込んで作るアイリッシュシチュー(アイルランドの郷土料理の代表)のようなコクのある味になった。

日本はテレビ番組でも YouTube 動画でも、動画の一部として埋め込まれたテロップが多い。音声だけでなく眼からも情報が確認できるので、日本語初級レベルの夫にも役立っているが、確かにハウツー物の動画は音声でも文字でも「ポイント」がおびただしく繰り返される。

「ポイント」は「コツ」とか「重要な点」という意味だから、多用されるのはもっともなこと。「でも英語ではこういうときに This is the point とは言わない」と主張する夫に、じゃあ何て言うのと聞くと、うーむと悩んだ。

オンラインの辞書サイトで英語の名詞の point を和訳してみると、何と40近い意味が出てきた。そのうち上位にあるものが主な意味のように思えたので以下に引用してみる。

  1. 〔議論などの重要な〕主張、提案、論点
  2. 〔話や考えなどの〕要点、核心、真意
  3. 〔とがった物の〕先端(部)◆鉛筆や刀などのとがった先。
  4. 〈古〉〔とがっている〕刀、針
  5. 〔指・あご・ひじなどの〕先
  6. 〔突き出た〕半島、岬、突端
  7. 〔とがった物で付けた〕点、穴
  8. 句点、ピリオド
  9. 《数学》小数点

(出典:英辞郎 On the WEB)

日本語で「ちょっとポイントずれているよね」と言うときの「ポイント」は、1番の「論点」という意味だろう。英語では「You are missing the point」のようになる。

料理番組などでよく使われる「ポイント」は、2番の「要点」の意味に近いのだと思う。だが英語に訳すときは、ただ point ではなく、key point や important point のように訳さないと、日本語の「ポイント」の「重要な点、コツ」という意味はうまく伝わらないようだ。夫は key point が一番しっくりくる、と納得してくれた。

だが、ハウツー物でよく使われる日本語の「ポイント」のどれもが「重要な点」という意味ではない。例えば「デミグラスソースの代わりに味噌とケチャップを使うことがポイント」の「ポイント」は、「ちょっとした裏技」という意味だろう。英語の元来の point の意味からは離れている。英語では trick 「トリック」とか secret tip「秘密のアドバイス」と訳すのがいいかもしれない。

ではハヤシライスの出来栄えは? あの独特のハヤシライスのルーの味が恋しいのであれば「ちょっと違う」かもしれないが、ご飯が進み、二人ともお代わりをするほどおいしかった。

ダブリンの街中に少しずつ人が戻り始めた。一番の目抜き通りのグラフトン通り Grafton Street からセント・スティーブンス・グリーン(公園)St. Stephen’s Green の入口を望む。

市民の憩いの公園、セント・スティーブンス・グリーン。仕事の合間にランチを食べたり散歩をしたりする人が増えた。