私は自分の鼻が低いと思ったことはない。でもそれは日本での話。アイルランドで私の身近にいる人たちの多くは、私とだいぶ違う作りの鼻をしていることに気づく。私は人差し指を立ててあごと鼻の頭を結ぶと、唇がべたっと指についてしまうが、こちらの人の多くは(やってもらったことはないが)唇と指のあいだにかなりすき間ができるのではないか。

日本語では鼻について形容するとき、よく「鼻が高い」「低い」と高低について言う。こちらでは、そもそも鼻が高いのが当たり前のせいか、鼻の高さについて言及することがあまりない。日本語を英語に直訳して「My nose is high」と言っても、顔の中での鼻の位置が高いと言っているように思われる。

日本でいう「高い鼻」は、英語では「長い鼻 long nose」になるようだ。鼻が長くて顔から突き出ている、つまり高いということらしい。でも、垂れ下がるように長い、というケースも指す。「大きい鼻 big nose」という表現はよく使うが、鼻が全体的に大きいために高さもあることになる。

キャンディ・キャンディ(70年代後半の少女マンガ、TVアニメの主人公)はよく「鼻ぺちゃ」とからかわれていたが、こちらでは鼻が高いのが当たり前でも、だからといって鼻が低くてもあまり気にしないようだ。日本語の「鼻が低い」を言おうとすると、「鼻柱が平たい The bridge of my nose is flat」が近いかもしれない。あとは「鼻が小さい(全体的に小さいから高さもない)」となる。

私は普段はコンタクトレンズを使用し、家ではメガネをかけている。度がとても強いので、メガネを作るときはレンズをできるだけ薄くしてもらうが、日本ではこうしたレンズの加工に追加料金がかからないお店が多い。アイルランドのメガネ屋ではどこへ行っても追加料金が加算され、私の近眼度だとそれだけで200ユーロ以上はしてしまう。だから数年に一度は日本に帰国した折にメガネを購入するようにしている。

しかしコロナのおかげでしばらくは日本に帰国することは不可能。そこで、アイルランドで定期的に視力検査をしてもらっている近所のメガネ屋さんで新しいメガネを購入してみた。そのときのことは以前の記事、遠近両用メガネの sweet spot で触れている。

この新しいメガネ、フレームのフィッティングに30分もかけてもらい、フレームを曲げてもらったりキツくしてもらったりして私の顔に合うようにしたはずなのだが、家に帰ってしばらくかけてみると、やはりずれてくる。どうしたものか。

私の選んだフレームはいわゆる「鼻あて」のないタイプで、鼻にかかる部分が突起状になっている。問題はこの突起が私の鼻柱には足りないこと。いや、私の鼻柱が低すぎること。こちらの人の大半は鼻柱からして高いから、フレームのこの突起が小さくてもしっかり鼻にメガネがかかるらしい。この、鼻の高さ、鼻柱の高さの違いが、メガネのフィットに大いに影響すると初めて知った。考えてみれば当たり前なのだが。

日本で買ったメガネとアイルランドで買ったメガネでは、中央の「鼻あて」の部分のでっぱり度が違う。日本のメガネ(右)の方がかなり突き出ていますね。

日本のメガネ屋さんでは、フレームのこの鼻あての部分を盛る加工、鼻盛り加工というのをしてくれるところがあるらしい。アイルランドでももしや、と思い、もう一度お店に行って聞いてみると、鼻盛り加工はしないが、この突起部分に貼るシリコン状のパッドがあるとのこと。

店員さんはパッドを探しにお店の奥に消え、数分後、「最後の1ペアが残ってた!」と戻ってきた。さっそくフレームに付けて突起を大きくしてもらうと、鼻柱が高くなったような状態になり、メガネが鼻の上にしっかり乗る。もうまつ毛もレンズに触れないし、かけ心地が全然違う。

どうしてフィッティングサービスをした最初の店員さんは教えてくれなかったのだろう。フレームがなかなかフィットしないのは「あなたの鼻柱が低めだから…。 The bridge of your nose is flatter…」と私の鼻のせいにしていたから、パッドが救世主になることはわかっていただろうに。出し惜しみしていたのか、それともパッドの存在さえ知らなかったのか。「普段はストックしていない」とパッドを探し出してくれた店員さんは言うし。

この鼻パッド、汗やお化粧などで汚れるため、頻繁につけ替えることが必要。結局日本で替えのパッドを買って、家族にアイルランドまで送ってもらうことになった。日本ではこうした商品はメガネ屋さんはもちろん、100円ショップでもあるようで、こういうカユいところに手が届くものが簡単に手に入る日本はやはり便利だ。

(後日談)日本からの郵便が届く前にパッドの取り換え時が来そうだったのでメガネ屋さんにまた寄って聞いてみると、「そんなものはない」とけんもほろろな返事。アイルランドのオンラインショップで売っているところを見つけたので取り寄せたら、何と日本製のパッドが届いてびっくり。