先週初めて、遠近両用メガネというものを買うことになった。ド近眼の私は、コンタクトかメガネをしていないと生活できない。外に出るときはコンタクト、家ではメガネを使用していたのだが、最近メガネだとテレビの字幕などが見えにくくなってきたのだ。

アイルランドで暮らして20年近く。大学では英米文学科だったので、英語の授業も多かったし、卒業後も英会話学校に通ったりして英語にはひんぱんに触れるようにしていた。そのせいか、初めての外国暮らしでも、英語圏なので何とかやっていけた。最初の半年くらいで日本にいたときには習わなかった表現や語彙にたくさん触れ、(まだ若かったので)どんどん吸収していった。その後もしばらくは、知らない言葉を聞いたら意識して調べて覚えるようにしていた。

でもいつのころからか、その努力をしなくなってしまった。仕事でも日常生活でも何とかやっていけるからだ。知らない表現が出てきても何となく全体の意味が分かればよし。仕事上のメールなどはすぐに調べて翻訳できるので、意図して覚えようとしなくてもほぼ大丈夫なのだ。

それに、アイルランドやイギリス放送のテレビ番組のほとんどには字幕が付いていて、音声を聴き、目で字幕を追えば、だいたい理解できるようになっている。料理番組やミステリードラマに目がない私は、この字幕が不可欠。字幕がないと、珍しい具材の名前などを聞き漏らしてしまうし、出演者のアクセントによっては言っていることがほとんど聞き取れないときもある。ミステリードラマではちょっとでも聞き逃したことが重要な手がかりだったりするので、字幕はいつもオン! 聞き漏らしたら速攻巻き戻してもう一度チェックする。視聴時に簡単に一時停止や巻き戻しができるなんて、本当に便利な世の中になったものだ。

なので、テレビの字幕が見えづらくなってきたのは一大事である。そこで近所のメガネ屋さんに行って視力測定をし、メガネ購入の意思を伝えると、varifocal レンズのメガネを勧められた。

バリフォーカル Varifocal とは複数の距離に焦点を当てているレンズのことで、遠近両用メガネの一種である。黒目の位置、目の幅を図ってもらい、選んだフレームに合わせてレンズのどの箇所にどういう距離の焦点を合わせるか相談していく。顔の位置は動かさないままで目線を少し上に上げれば遠くがよく見えて、目線をまっすぐ前に向ければ中近距離(テレビなど)がよく見え、目線を下げれば手元に焦点が合うようにしてもらう。老眼が進行してきているので、遠くや少し離れたところに焦点の合っただけのメガネでは、本やスマホなどが見えにくくなるからだ。

このバリフォーカルメガネ、慣れるまで時間がかかることが多いらしい。ちょうど、ピアノの先生もメガネを買い替えると言っていて、このタイプのメガネを注文したとのこと。彼女のお姉さんはすでにこのタイプのメガネを使用していて、買ってしばらくは、「階段を乗り降りするときに、目線を下げないで顔を下に向けて階段を見るとぼやけて見えて、気を付けないとこわかった」とのこと。よし、気をつけよう。

注文したメガネが出来上がったと連絡があって、取りに行く。おっかなびっくりかけてみると、確かに遠いところがきれいに見える! テレビの字幕もばっちり! でも、目線を下げてもスマホや本の文字がぼやけて読めない。数日試してみたがやはり無理なので、メガネ屋に戻ってフレームの調節と、どうやったら近くが見えるようになるのか聞いてみる。

「レンズの下部のこの辺の、ごく小さい部分に目線を落とさないといけないんです。それに遠と近の度の差が大きいので、脳が慣れるまでに時間がかかるんですよ。Sweet spot が見つけられるまで、練習するしかないです」と励ましてくれた。このスイートスポットという言葉、よく知らなかったのだが、次のような意味らしい。

  1. 物の表面で、最小の努力で最大限の力を与えてくれる部分。(野球のやテニスラケットなどで、当たりの一番よい部分)
  2. もっともよい、または効率的な状況や場所。

私のメガネのスイートスポット探し、まだ続きます。